同じ釜飯焚き火を囲んで
辺りが暗くなると星と焚き火の明るさだけが頼りだ。
「親方、戻りやした」
「おう大分さっぱりしたじゃないか」
ボッシュたちヒルジャイアントには川へ水浴びに行かせた。とにかく不潔な様をどうにかするためだ。
「へへ、身体洗う、初めて。変な感じ、でも気持ちいい!」
「そうか。慣れないことをして風邪を引くなよ。そうしたら適当に薪を集めておいてくれ」
「へい、判りやした!」
ボッシュたちは野営地近くで落ちている枝や枯れ木を集めに行く。
巨体に合う服は無いので天幕の予備やずだ袋を使った簡易的な服を着させた。それまで身につけていたぼろぼろの毛皮は野営地の端に枝でついたてを作ってそこに掛ける。
「ねえゼロ様、なんでその毛皮を吊るしてるにゃ? 臭いがすごいんだにゃー」
俺が作業をしているところへカインがやってきた。もう目隠しはしていないから猫耳娘の状態だ。
「だからだよ。ここに巨人がいるんだぞって、においで野生動物に判らせるんだ。そうすれば無駄に襲ってくることはない」
「なーるほどにゃ! さすがゼロ様にゃ。でも臭すぎるからもうちょっと天幕から離して欲しいにゃあ……」
「判った判った、やっておくよ。で、何か用だったか?」
「あ、お姉ちゃんがにゃ、シチューできたって。今夜は大飯食らいがいっぱい、いーっぱいいるから、来るの遅かったら無くなっちゃうかもー、だってにゃ」
「そりゃあ急がないとな」
俺がカインと一緒に焚き火の場所へ戻る。
「ちょっとカイン、なんでゼロに腕を回しているのよ」
「ここが居心地いいからそうしているだけにゃ」
「居心地って、離れなさいよカイン!」
「やだにゃ~!」
「ほら二人ともやめないか」
シルヴィアが変な目で見ているじゃないか。
「尊い……」
ほらな。
「親方、薪持ってきやした」
「ニンゲン、ウマイ!」
ドッシュがイチルーの頭をひっぱたく。
「ご苦労だったな、おお、すごい量じゃないか」
「ほんとだにゃ、これだけいっぱいあったらおうちができそうにゃ!」
「できないって……」
カインとルシルの会話に皆が笑っていた。
「ニンゲン、ウマイ?」
またイチルーがドッシュに叩かれていた。
「さあ皆さん、シチューができあがりましたよ」
「木の実のデザートはボクが作ったにゃ~」
わいわい騒ぎながら焚き火を囲んで丸くなる。
「こういうときは何か言うものですよ、ゼロさん」
「え、俺?」
「そうです、あなたです。今日加わった巨人さんたちも含めて、あなたがいたから皆ここにいるのですよ」
そう言われてみれば不思議なものだ。
「しょうがないなあ。えっとなんだ、まあ皆いろいろあったと思う。俺もいろいろあった。でもここでこうして一つの鍋を囲んで同じ物を食えるというのは、何か特別なものがあったのかもしれない。神の、いやもしかしたら魔王の導きなのかもしれないな」
ルシルの顔が少しほころんだ。
「とにかく、俺はやりたくないことをやってきた。嫌なことから逃げてきた。これからは好きなことをして自由に生きる。そして好き勝手やって好き勝手に死にたい! 生き物はどうせいつかは死ぬ。だったら好きなことをしようじゃないか!」
「迷惑にならない範囲でね」
ルシルの突っ込みに周りから笑いが出る。
俺はシチューの入ったお椀を持つ。
「……ごほん。それじゃあ、乾杯っ!」
乾杯の大合唱が丘の上にこだました。