納得してよルシル
俺は宮殿から出ると堀にかかる橋を渡る。
橋の終わりにフードを目深にかぶっている人物が立っていて、俺を見つけると近寄って話しかけてきた。
こいつはこの三年、魔王を倒してから今までずっと俺と旅をしてきた少女だ。
「ゼロ、どうだった? 報奨金いっぱいもらって貴族に取り立ててもらったりしたかな!?」
フードをかぶっているので表情は判らないが、それでも希望に満ちた弾むような声。
俺だって宮殿に入る前は同じように期待に胸を躍らせていただけに、こいつの喜んだ声が俺の心をチクリと刺す。
「解雇になったよ、ルシル」
「そっかぁ、領地はどの辺りかなあ。南の方なら気候もよくて過ごしやすいんだろうけど、北の方でもいいよ、って、クビ~!?」
ルシルが驚いた拍子にフードがめくれて頭があらわになる。
幼いながらも大人びて整った容姿に、肩まで伸びた黒い髪がさらさらと風になびく。驚いて見開いた目、その金色の瞳が印象的だ。それに一番目立つ部分は。
「ルシル、角、角が見えているぞ」
額から二つ、ちょこんとした角が生えているのだ。
俺は慌ててフードをかぶせた。
とっさに周りを見るが、門番や衛兵たちで気付いた者はいなさそうだ。
「ちょっ、クビってどういう事よゼロ! いたっ、そんなに手を引っ張らないでよ!」
「ここで話すのも何だから、落ち着ける場所へ行こう」
俺は門番たちから逃げるように、ルシルの手を引いて宿屋へ向かった。宮殿からほど近い大通りに面した宿屋だ。
「ああお帰りなさい、ゼロ様、ルシル様」
急いで宿屋に駆け込むとカウンターの主人が俺たちを迎え入れてくれる。
「お疲れでしょう、部屋の掃除は済ませておりますのでごゆっくりどうぞ。夕飯ができましたらお声がけしますので」
「ああ頼む」
それだけ返事をして二階へ上がる。
王都の中心街だけあって、磨き抜かれた床や選び抜かれた調度品など高級感漂う造りになっている。階段を上って一番奥が俺たちの泊まっている部屋だ。
部屋に入ってようやく俺はルシルの手を離す。
「いったぁ……、アザになったらどうするのさ」
膨れるルシル。部屋に入ったからもうフードははねのけていた。
金色の瞳が俺をまっすぐに見つめる。
「どうやら俺はお役御免になったらしい。強すぎる勇者なんて平和な王国には要らないってさ」
「なによそれ! だって、魔王という存在がいなくなって、人間にとって過ごしやすい世界になったのも、ゼロが魔王を封印して、その上無秩序に散らばった魔物たちをどうにかしたからじゃないの! なのに恩を仇で返すような仕打ち、到底許せるものではないわ!」
「まあまあ落ち着いてルシル」
俺はルシルを優しく抱きしめる。
「ふにゃっ」
「俺だって最初に聞いた時はびっくりしたよ。でも仕えている国がそう決めたんだ。雇われの身としては承諾するしかないさ」
「でもっ……」
ルシルの目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「それにあの宝物は……?」
「持っていかれた」
「だってあれは」
「まだ呪いを解いていないアイテムばかりだったからなあ。後で浄化しようと思っていたけど、あれって持ち主だった魔王かそれを倒した勇者にしか解けない呪い、だったよな」
ルシルは涙ながらにうなずく。
【後書きコーナー】
基本的に本編はゼロの第一人称で書きますので、後書きコーナーでは第三人称、神の視点で遊びたいと思います。
※王宮にて
「のう大臣、この宝はどうしようかの」
「そうですねえ、この首飾りなどは、国王陛下にお似合いではないですか?」
「どれどれ? ほほう、似合うかね?」
「ええ、力で民を従える、覇王の力が出てきそうですな」
「そうかそうか。うむ、なにやら強くなった気がするぞ。よし、この鞭を大臣、そなたに褒美としてくれてやろう」
「よろしいのですか、陛下……痛っ! 痛いですぞ!」
「だから鞭をくれてやったのだ」