瘴気の谷会議
俺たちは瘴気の谷の中でもバーガルが宮殿として使っていた建物で今後の対応について検討を行っていた。
「流石はドワーフの造った建造物だな。彫刻もいいが何よりもこの堅牢さが素晴らしい」
神々の姿を模した彫刻が柱となって天井を支えていたり、壁のレリーフが神話の叙事詩を事細かに表現していたりする。
「頑強である事は保証済みです。これでしたら収容している捕虜たちに逃げられる事も無いでしょう」
ベルゼルが安全性を主張するとバーガルもそれにうなずく。
「ただ捕虜と言っても最低限度の敬意を持って対応して欲しい。そこだけは必ず頼むぞ」
「しかしゼロ様、ワタクシたちも少なからず被害を受けております。部下たちの仇である奴らを捕らえた上に丁重にもてなす必要があるのでしょうか」
「命を落とした者や負傷した者に対してないがしろにするつもりはない。俺たちの仲間である事は違いないのだからな。だがこれ以上の犠牲を払う必要もないと俺は考えている。それは敵味方の区別なくだ」
俺としては敵対する者には厳しくも当たるが、それは相手の都合あっての事。一度下った者にまで辛く当たったりはしたくない。
「だが俺を裏切った場合はその限りではないがな」
俺の怒りにもにた感情が押さえようとしても漏れ出てしまうのだろうか、部屋の空気が緊張した物に一変する。
「俺は主に裏切られた事がある。勇者として国のために戦った結果が平和な時代には無用の長物として邪険に扱われ奴らの平穏を邪魔する者として始末される寸前にまで陥ったのだ。だから俺は仲間を裏切って俺の味わったあの苦い経験をさせたくない。そして俺ももう裏切られたくないのだよ……」
俺は一息ついて皆を見渡す。
アガテーが真剣な表情で俺を見る。その隣には魔王の右腕だったベルゼル、瘴気の谷の魔族の長バーガル、その補佐としてルシルの妹であるレイラが座っていた。
そして俺の側には魔王の力を取り戻したルシルがいる。
「ゼロ、大丈夫だよ。もうあんな事は起きないし、ゼロも起こさないと私信じているから」
ルシルは俺の手に自分の手をそっと重ねた。
「ありがとうルシル」
俺の理解者であり何よりも大切なパートナーだ。
俺はルシルのためにも俺が消滅させてしまった魔王の本体を見つけなければならない。その上で今では国を治める王としての役割もある。まさか国を持つなどとは思ってもみなかったが、情報や力を使うためにはこれが一番効率がいいはずだ。
だからこそ俺は目的を達成するまでは裏切ったり裏切られたりなんてやっている余裕はない。
「俺の力になるという者は受け入れるが、俺に敵対する者、外部からの脅威は排除する。俺の手の届く範囲ではあるがな。それで、次に奴らが狙うはマルガリータ王国と予想しているが皆の意見を聞きたい」
俺の質問に全員が押し黙ってしまう。
少しの間静寂が訪れたが、覚悟を決めたのか手を上げる者がいた。
「発言を認めよう」
俺は挙手をした者の言葉を待つ。
挙手した者は手を挙げたまま椅子から立ち上がり、口を開いた。