応援に駆けつけた者たち
ベルゼルの話では、一時行方不明となっていたバーガルなども実際は敵から身を隠すための策であり、妖魔の森で再集結を行い瘴気の谷へ反転攻撃を加えたという事だった。
「レイヌール王、陛下、この度は直々の援軍誠にありがとうございます」
俺たちに合流したバーガルが頭を下げる。
バーガルも魔王としてこの一帯の魔族を束ねる王だが、これまでの経緯もあって俺に対しては目上の者に対する礼を行う。
「バーガル、無事でよかった。瘴気の谷も再占領したと聞くが」
「はい、陛下がこちらで敵軍を釘付けにして下さったお陰で、我らはそう大した抵抗もなく本拠地を取り戻す事ができました」
「復興には時間が必要だとは思うが、前もってルシルから思念伝達で伝えた通り、瘴気の谷の施設をいくつかこの捕虜たちを収容する場所にさせてもらいたい」
「それはもちろん、否やはございません。監獄は当然ながら既にいくつかの集会場や宿などでも収容施設としての整備を始めております」
「捕虜とはいえ手荒なまねはしないようにな。当然武器は持たせないにしても客人待遇くらいには考えておいてもらいたい」
「彼らは元々奴隷と聞いておりますが、恐らくは強制で働かされていた頃と比べれば格段とよい待遇かと存じますぞ。それと……」
バーガルが後ろを指し示すと、そこには魔族たちが一団となって集まっていた。
「捕虜を移送するための人員もご用意しております」
「それは助かる。数えたら八千人は下らないようだったのでな、俺たちだけではどうやって連れて行こうかと考えていた所だ。まあ脱走する者たちは好きにさせているがな」
「陛下、それではどこに敵兵が潜伏するか判りませんぞ。遊撃されたり町に紛れ込まれたりしたら大変な事に……」
確かにバーガルの言う通りかもしれない。逃げ帰ってくれればそれはそれで構わないのだが、町に紛れ込んでしまうとどこで火の手が上がるか判ったものではないな。
「よくぞ忠告してくれた。確かにバーガルの言は傾聴に値するな」
「ははっ、恐れ多いお言葉にございます」
「よろしい、敵であった者でも俺の名において自由人となる事を認めようと思うが、その前にこの西からの脅威を排除せねばな。そうでなくては彼らも裏切り者として扱われてしまう事となるは哀れだ」
「ご厚情、奴隷たちも感謝する事でありましょう」
そうは言ったものの、俺も寝返った者たちをどこまで信用すればよいか迷うところもある。
奴隷たちを取り込んだとしてもそれを前線に送り込んで更に寝返りをされてはこちらの被害も大きくなるだろう。
ここは奴隷たちが下った当初の想定通り、一度戦闘から離れた場所で隔離して一区切りついてから身の処し方を検討しようと思う。
「ドレープ・ニールが兵士たちを押さえてくれると嬉しいのだが」
俺は捕らえた奴隷貴族のドレープ・ニールに視線を投げる。
「こうなっては致し方ない。彼らも奴隷の身とはいえ我の部下であり大切な命だ。限られた中ではあろうが管理徹底をさせてもらおう」
「常に監視は付けるが、ある程度の自由は認めよう。手向かわなければ命も保障できるだろうな」
「まずはそのお言葉だけで結構」
ドレープ・ニールはそう答えて奴隷の兵士たちへ指示を送るために何人かの下士官と話をし始めた。
「これ以上無駄な流血が避けられればいいがな」
俺はドレープ・ニールたちが俺の指示に従ってくれる事に期待して捕虜たちを見る。
武装解除に応じた敵兵は、それでも命を奪われるどころか自由人としての解放の可能性が出てきたという話が伝わったのか、それ程悲観するような奴は見当たらなかった。