捕虜奴隷の収容先
形成は一気にこちらへ傾いた。
西の大陸から侵略してきた三王国の先鋒として奴隷で構成された部隊を率いていた指揮官を捕らえた。
全軍の指揮を執っていた奴隷貴族のドレープ・ニール伯爵、そして前線で兵たちと戦闘を任されていた剣奴将軍のドレイク。
どちらも無力化に成功したため投降させる事でこれ以上の流血は起こらずに済みそうだ。
「それにしてもベルゼル、お前が無事で何よりだ」
「お言葉痛み入りますゼロ様。しかしながらワタクシの不明ゆえお手を煩わせる事となりました。申し訳ございません」
「確かに瘴気の谷を奪われた事は痛手だが、それはお前だけのせいではない。まさかこれ程の戦力がこの速さで攻めに来るとは俺も予測の範疇を超えていた。国内の膿を出し切ってしまおうとしたが思いのほか手間取ってしまってな」
俺はベルゼルの恐縮する様子を見てねぎらう。
確かに狼どもの鎮圧に時間をかけてしまった事は俺の過失だったかもしれない。
「そんな事ないよゼロ、狼たちは放っておいたら国内を混乱させる火種になっていたよ、ねアガテー?」
「そうだよゼロさん、ルシルさんの言う通り!」
ルシルの言葉にアガテーも力強く肯定する。
両拳を握って振り下ろすものだから、それに合わせてアガテーの大きな胸が上下した。
「こら~ゼロ、アガテーのどこを見てるのよ~!」
「いや別に、うん、アガテーがベルゼルを連れてきてくれたからな、それで助かったぞ」
「本当、ゼロさん!?」
取り繕うとしてアガテーを持ち上げたものだから却ってそれがアガテーを喜ばせる事になってしまい、アガテーが俺の腕にしがみついてきた。
大きな胸が押しつけられて綺麗な形が崩れてしまうが、アガテー自信はまったく気にしない様子でしがみついた腕に力を入れる。
「ちょっとゼロ~!」
ルシルが俺の背中に飛びついて乗っかかった。
ふわりとした柔らかく甘い香りが俺の鼻をくすぐる。
ルシルも豊満という訳ではないがそれなりに女の子の身体をしていてそれを感じさせるだけの物があった。
「こらお前たち、やめっ、やめんか!」
慌てて振り下ろそうとする俺の姿を見てルシルもアガテーもいたずらっぽく笑っている。
まったくこいつら、何が楽しくて俺を困らせようとするのだ。
「はっははは、これはお世継ぎも間近ですかなゼロ様」
「ベルゼルまで何を言ってんだ!」
捕虜とした敵将たちの前でこいつらのはしゃぎようと言ったら。
「さて」
ベルゼルは後ろ手に縛ったドレープ・ニールとドレイクを見る。
後方に退避した敵軍は、自分たちの将が捕らえられている事を知って判断に迷っている様子だ。
中には逃げ出す者もいるようだが奴隷としての躾が心の芯まで染み込んでいるのか、ほとんどの者はその場で待機していた。
「こやつらと後ろの奴隷どもはいかがいたしましょうかゼロ様。なんでしたらワタクシが家畜の餌にして差し上げますが?」
ベルゼルの言葉を聞いて敵将たちは顔を青ざめさせる。
「ま、待ってくれ! 我らは部隊の責任を負う者、どうなろうとも構わんが兵たちは奴隷として主の命に従っていたまで。兵たちには何卒温情を賜りたく伏して願い奉る!」
ドレープ・ニールが手を縛られながらもひざまずいて額を地面にこすりつけた。
「伯爵様……。そうだ、オラだってどうなってもいい、そっちの魔族の旦那の首をもいだのも謝る! だから兵たちの命だけは!」
ドレイクも伯爵に倣うように平伏して懇願する。
「なあベルゼル?」
「はいゼロ様」
「お前こいつに首をもがれたのか?」
俺の問いに魔王の右腕として鳴らしたベルゼルがばつの悪そうな顔をした。
「まあ、剛勇でしたね。賞賛に値するかと存じます」
「そうか」
俺は意地悪そうに口角を上げる。
「ベルゼル、瘴気の谷はどうしている」
「はっ、こちらの軍勢をゼロ様がお相手下さっておりましたのでその隙を突いて逆撃を食らわせ、今では再制圧を完了しております」
「でかした。そうであればこやつらの収容場所として瘴気の谷を使う。今まで住んでいた者たちは避難したままとはなるが、疎開先にて生活できるよう助成させよう。一時とはいえこれだけの捕虜だ、留めるとすればある程度隔離できる場所が望ましかろう」
「なるほどかしこまりました。瘴気の谷の復興をと思いましたが収容所としてであれば閉鎖された区域を使う事で用が足りますな」
「職人や技術者は上手く避難できているかな?」
「はい、それはもちろん。マルガリータ王国に応援を頼みました際にそちらの方へ」
マルガリータ王国は瘴気の谷から南に行った人間の王国でレイヌール勇王国とは同盟関係にある。
「そうか、ララバイの所なら安心か」
俺の言葉にアガテーが反応した。
「ララバイって新しく国王に即位されたマルガリータ王の事?」
「ああそうだが」
俺の素っ気ない肯定を聴いてアガテーが一瞬しがみついていた手を放す。
「すっごい……やっぱりゼロさんってすごい人だったんだ!」
一度手を放したと思ったら俺に直接抱きついてきた。身体全体の圧力がすさまじい。その上俺の胸に頬をすりすりしてくる。
「ゼロさん、あたしずっとゼロさんに着いていくね!」
「ちょっとゼロ! ほっぺたが緩んでる!」
背中におぶさったままのルシルがすごい剣幕で俺を非難した。
「やっ、ちょっ待て、こら! お前たち! ベルゼル、どうにかしてくれないか、なあ!」
俺はベルゼルに助けを求めてみるが、その結果は芳しくない。
「これはもうゼロ様の仁徳のなせるものかと」
そういう事じゃあないだろ!
【後書きコーナー】
少し長めになってしまいましたがお楽しみいただけましたでしょうか。
女の子たちがキャッキャウフフするとどうしても文字数が増えてしまって、2000文字を超えてしまいましたが……。たまにはいい、かな?