貴族の誇り
剣奴将軍ドレイクの刀が俺の脇腹を捉えた。
超加速走駆をかけようとしたが、そのまま直進するとドレイクの湾曲した刀が突き刺さる事になる。
「SSSランクスキル発動、円の聖櫃! 物理攻撃を弾き返せ!」
俺は瞬間的に円の聖櫃を展開させた。魔法攻撃には効果が無いものの物理攻撃は完全に防ぐことができる。
そこで困るのは相手の武器が魔力を帯びていた場合だが相手は幻影を使ってくるも魔法の武器は使っていない。
そこに賭けたのだ。
「凌げっ!」
激しい金属音が鳴りドレイクの刀が円の聖櫃の壁に弾かれた。
「届かねぇのか!」
ドレイクの渾身の一撃は俺の身体に触れる前に魔力の壁に阻まれる。
弾かれてたたらを踏むドレイクの隙を今度は俺が見逃さなかった。
「SSランクスキル旋回横連斬! 回転する刃にて斬り刻まれろっ!」
俺は自分の身体を独楽のように回転させてドレイクに斬りつける。
一瞬で無数の刃にさらされるドレイクは手持ちの刀だけでは受けきれない。見る間に身体のあちこちに傷を作っていく。
「剣闘士を……なめんじゃねぇ!」
ドレイクが旋回横連斬を受けながらも俺に向かってくる。
「それでは身体が粉々になるぞ!」
「知った事かぁ!」
一撃一撃が致命傷になる程の強力な攻撃をその身に受けてもまだ立っているどころか闘志を燃やして向かってきた。
「そこまでです!」
別の方から男の声が聞こえる。
「や、やめろ! もう戦ってはならん!」
重ねるようにドレープ・ニールの悲鳴のような声も聞こえた。
ドレープ・ニールの命令を聞いてドレイクの動きが止まる。
俺もそれに合わせてスキルの発動を中止した。
「伯爵様!」
ドレイクは振り返って奴隷貴族のドレープ・ニールの姿を見る。
もはや俺に対する攻撃の意思は見られない。敵感知の発動が終わった事からも敵意がなくなったようだ。
「はい、そこまでです」
端整な顔立ちでよく通る声。魔界の貴公子とも呼ばれた男がドレープ・ニールの首元に長い爪を突き立てていた。
「ベルゼル!」
「ゼロ様、ルシル様、ご機嫌麗しゅう」
爪は立てながらもうやうやしくお辞儀をするベルゼル。
「ベルゼル、あなた討ち取られたと報告があったけど……」
「ルシル様もご存じでしょう。ワタクシ首だけになっても再生は可能でございますれば」
「そうだったなベルゼル。先の戦いでも俺が首をねじ切ったりしたものだしな」
「その節はお世話になりました」
確かに魔王の右腕として魔族を引き連れていた頃に戦った時、俺はベルゼルを首だけの状態にした事があった。
それでも魔族というやつは驚異的な回復を見せる。
前にその事をルシルに話したら、あれはベルゼルだけの特殊能力だ、とか言ってむくれていたものだが。
「ともあれ無事でよかった。それにしても都合のいい登場だな」
「ええ、誘導して下さった方がいらっしゃったので」
ベルゼルが背後を横目で見ると、そこにはアガテーが得意そうな顔でこちらを見ていた。
「アガテーがベルゼルを見つけてここへ連れてきてくれたのか」
俺が驚く様を見てアガテーの顔が更に喜びの笑みをたたえる。
「ワタクシも魔族では貴族の端くれ、これくらい行えずにどうしますか」