剣技の応酬
敵軍は後方に退避しているが陣幕の前には二人の男が立っている。
奴隷貴族のドレープ・ニールと、剣奴将軍のドレイクだ。
俺は豪炎の爆撃の爆風を利用して空中に飛び出している。
「井戸を使った罠をこうも力技で切り抜けるとは……」
焦りの表情が顔に出ているドレープ・ニールは、今にも腰が砕けそうな程に怯えていた。
それとは正反対の反応を見せるのが剣奴将軍のドレイク。
ドレイクは大きく湾曲した刀を手にして俺をにらみつける。
「さっすがオラの戦相手だぞ!」
落下し始めた俺の着地点を狙ってドレイクが走り込んできた。
「広いところとなれば気に掛ける事も無い。Sランクスキル発動、剣撃波!」
俺は剣を振り下ろしその剣撃で衝撃波を発生させる。
「なんっ!」
ドレイクは向かってくる衝撃波をぎりぎりで避けるが躱しきれずに頬が少し切れた。
衝撃波はそのままドレープ・ニールの方にまで届き、奴隷貴族の左手首を斬り割く。
「ぐっぎゃぁ!」
ドレープ・ニールの悲鳴が上がる。
距離があったために威力が削がれていたのだろう。手首切断には至らなかった。
だがあの様子では物を持つ事はできなさそうだ。
「奥の伯爵とやらの罠はもう終わりか?」
大きな音と土埃を出しながら着地した俺は向かってくるドレイクに問いかける。
「さあな、オラはよく判らねえが、伯爵様なら何を仕込んでっか判んねえぞ!」
ドレイクは剣撃波を避けたために俺の着地には届かなかったが、抜き身の大きく湾曲した刀を振り回して突撃をかけてきた。
「お前たちは姑息な手ばかりを使うが、戦いに自信が無いのか?」
「オラは強ぇぞ!」
俺の挑発に易々と乗ってくるドレイク。口も悪ければ頭も悪いようだな。
「だが力は侮れん」
ドレイクの振り回す刀が四方八方から襲ってくる。
「隷技、八方向の包み斬り!」
高速で繰り出される刀は、その独特な形状のためか流れるような回転動作によって斬りつける速度が上がっていく。
それが複数の刀に見える程の速さになる。
「だが俺には児戯に等しい」
「なにぃ!」
俺は覚醒剣グラディエイトでドレイクの刀をことごとく弾き返す。
「どれだけ高速になろうとも振り下ろす時間が発生する。届く最低限の範囲で切り返せば弾き返す事は造作も無い」
内側から弾くには手首を返して相手の刀に当てるだけでいい。
確かにその合間を縫って攻撃に転じるには少し難しいかもしれないが。
「くっそう!」
刀を繰り出しながらも全ての攻撃が弾かれる様子にドレイクがじれてきた。
「うおおお! 隷技、十六方の囲い斬り!」
ドレイクの攻撃が更に速度を増す。
「倍か、なるほど」
ただこれくらいではまだ俺には余裕で弾き返せる。
所詮相手の刀は一本だ。大きく逸らす事ができれば攻撃の隙が生まれるはず。
俺は次に振り下ろされる攻撃に向かって大きく弾き返すように力を込めた。
刀と剣がぶつかると思った時。
「またかっ!」
俺の剣はドレイクの刀をすり抜けてしまう。
そこにあった刀はぼやけて消えた。
「幻影めっ!」
ドレイクの大振りな攻撃は幻影で作られていたもので、俺の攻撃を誘い込む罠だ。
力を入れていただけに俺の挙動が大きくなった。
「隙ありっ!」
ドレイクは見逃さない。俺の脇腹にドレイクの刀が迫ってくる。