対人特化戦闘
戦場にほんの一時の静寂が訪れる。
「敵の大将をかくまって引き上げるかと思えば、まだ居座るつもりのようだな」
「そうだね。あの奴隷の将軍は戦い慣れしていたんじゃない?」
「ああ」
俺は勇者として魔族と戦っていた時に脇目も振らず修行に励んでいた。
魔獣などをこれでもかと言う程に倒してきて、気が付いたら誰も俺のスキルにかなう奴がいなくなっていたのだ。
ルシルも魔王の頃はとてつもなく強かったが、それでも俺の強さの方が桁違いに上回っていた。
「だからこそ魔王を殺さずに倒す事ができたのだがな」
「どうしたのゼロ?」
俺は空を仰ぎ見て戦いで感じた事を反芻してみる。
「言われてみれば俺の強さは下地の能力とスキルによるものだ。奴のように対人戦で鍛え上げた戦い方ではない」
「そういう所だと純粋な力と言うよりは戦慣れとかそういう話なのかな。ずるさとかも含めて」
「俺もそれを感じた。特に俺は同じ相手と長時間戦うような事がなかった。一方的な圧勝と言えば聞こえはいいが、そうならなかった時の戦い方は経験がない」
「手詰まりになる?」
俺はルシルの言葉にうなずいて応える。
「仲間の物渡しと言ったか。物体浮遊を使って刀を仲間から受け取った技だ」
「気付かなかった?」
「俺の背中に当たるまではな。その技を使って俺の背後にいた兵から刀を受け取ろうとしただけ、その通過点に俺がいるよう仕向けた訳だだ。そうなると俺へ殺意をもって攻撃をするのではなく、単純に物体を受け渡したに過ぎないからこそ、敵感知では感知しなかった」
「あのスキルじゃあそこまで複雑なことが把握できないからね」
「その通りだ。奴は戦い方を知っている……。そういう意味でも強敵だ」
今俺たちを囲んでいる兵は歯牙にもかけない連中だ。力押しでどうとでもなる。
だが奴隷の兵士たちの中にドレイクのような剣闘士上がりがいたら、対人戦に特化した戦闘が得意な奴がいたら。俺のスキルに抵抗できる奴がいたら。
「実際にいた訳だから、それが数人現れたら俺も苦戦するかもしれないぞ」
「そんな、大丈夫だよ、ね?」
「そうありたいものだがな」
自信がない俺というのも珍しい。自分でそう思うのだからルシルからすれば別人でも見るかのような感覚だろうか。
「これは一本取られたなあ」
「そう思うならなんでそんな……」
ルシルは俺の顔をまじまじと見つめる。
「そんなにも嬉しそうなのよ」
「あいつの強さはかなりのものだ。剣闘士にはああいう奴が何人もいるだろう。将軍と言ったからあの程度の戦士は少ないだろうが、それでも存在はしていて前線にも出てくるくらいだ。更に強い奴がごろごろしているかと思うとな……」
俺は手にした剣を大きく振るってこびりついた血を振り払った。
「武者震いが止まらんぞ……」