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選択せよ逃走か従順か

 圧倒的な力を見せつけた俺が三体のヒルジャイアントを見る。

 痛みよりも恐怖で身体が動けなくなっている巨人たちは俺がどうするのかを不安げに見ているようだった。


「そもそも共通語が通じるかっていう話もあるのだがな。どうだ、会話できるか?」


 俺は巨人語を習得していないので話しかけるにしても標準語だ。ルシルに通訳をしてもらうこともできたが、直接話しができるならと思った。


「あっし、少し、判る……」

「おお。いいなあ話が通じるというものは。このところ人間同士でも話が通じない奴が多くて困っていたところだよ」


 答えた巨人の前に立つ。


「おうわぁあぁぁ!」


 別のヒルジャイアントが泣きながら俺に拳を向けた。俺はそれを左手で簡単に弾き返す。


「ボッシュ!」


 俺と話ができる巨人が俺に攻撃を跳ね返された巨人を注意し、巨人語でいくつか言葉を交わす。


「ごめん、あっしら、人間に追われて逃げてきた。一日のいっぱい、逃げた」

「そうか、何日も長い間逃げていたのだな」


 俺も同じような境遇だっただけに、逃亡生活の辛さは多少理解できる。


「次会った人間、殺せたら食べる、殺せなかったらあっしら死ぬ、考えていた」

「ほう。でも死ななかったな。次の人間を探すか?」

「あっしら、逃げる疲れた。あっしらお前殺せなかった、だから死ぬ」

「潔いな。まあそう焦ることもあるまい」


 詳しい話を聴くと、ヒルジャイアントはここよりももっと森の奥に進んだ丘陵地帯で暮らしていたらしいが、数年前に西の暗雲が晴れると、人間たちが森にたくさん入ってきて森を荒らしたのだそうだ。

 それでヒルジャイアントの集落が襲われ、大多数は殺害されたが労働力として連れて行かれたり彼らのように逃げて放浪している者もいるということだった。


 西の暗雲って、魔王関係しているよな……。


「行くあてがなくて困っているのであれば俺が面倒を見てやってもいいが、どうだ? ただし、俺の仲間に危害を加えるようなことがあれば、ルシル」

「あなたたちの心臓が破裂することになるから覚えておいてね」


 ルシルは大罪の清算ジャッジメント・ギルティを巨人たちに施す。これは魔王の能力の一つで約束を破ったらその対価として命が奪われるというとんでもない呪いだ。


「俺たちに危害を加えないという条件であれば、好きにしていい。ここから立ち去るでもいいし俺たちに加わっても構わない。どうするかは選ばせてやる。その前に俺が付けた傷は癒やしてやるからその間に考えるのだな」


 俺は治癒魔法をかけてヒルジャイアントの傷を治していく。

 ヒルジャイアントたちは三人で話をしているが特に騒ぐでもなく、俺の方に向いて座り直した。

 一応会話が通じる知的生物として、三体ではなく三人と数えてやろう。

 少しだけ標準語を話せるヒルジャイアントが口を開く。


「あっし、ドッシュ、こいつ、ボッシュとイチルー。あっしら……」

「ニンゲン、ウマイ」

「馬鹿野郎! お前、しゃべるなイチルー! お前、知らない、それしか!」


 ドッシュはイチルーの頭を叩く。


「へい、あっしら、親方に従います。お願いしやす、いいでやすか?」


 三人は大きな身体を小さくして俺に頭を垂れる。

 ルシルが大きなため息をつく。まあ大罪の清算ジャッジメント・ギルティを掛けているから俺たちへの攻撃というより、俺の甘さへのため息かもしれない。


「そうかいいだろう。これでお前たちも俺たちの仲間だ。よろしくな」


 別に魔王がいなくなったからこいつらの生活が崩壊したという事ではないが、原因の一つではありそうだからな。


 すっかり日も落ちて空には星空が広がる。

 焚き火の明かりが七人となった俺たちを照らしていた。

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