剣奴将軍
俺たちは平原で奴隷軍たちとの戦闘を続けている。
全体からすればそれ程数は減っていないのだろう、まだまだ人垣の先が見えない。
一箇所で戦っていると倒れた敵兵がうずだかく積み上がっていくため少しずつ戦場を変えながら倒していく。
「上空から見たら虫食いの跡みたいに見えるのかね」
戦闘を続けながら軽口を叩く。
ルシルは思念伝達を使いながら、敵兵の動きを俺に伝えてくれる。
「右側から騎馬隊が来るみたい」
「歩兵だけでは拉致があかないと見たか。指示を飛ばしている奴は見つけられるか?」
「命令の伝播の仕方から方向は見えてきたかも」
「でかした。よし、その方角へ進もう!」
俺はルシルを引き連れて指揮を飛ばしている奴のいる方向へと進んでいく。
「ルシル、アガテーは無事か?」
「思念伝達で聞く限りじゃ大丈夫みたい。指揮官のいそうな所を探ってみるって」
流石は戦局を一人で変えてしまう力があると言われた熊と呼ばれる傭兵の生き残りだ。隠密行動に長けているだけではなく、戦場での生きながらえ方と敵の急所を理解している辺りは歴戦の強者と言ったところか。
「アガテーは任せてもよさそうだな。だとすると俺たちもその指揮官を捕まえに行くか。押し寄せてくる奴らを相手にしていたらきりがない」
「まあそうだよね」
「今まで温存していたが、少しくらいならいいか」
俺は目の前の敵を斬り伏せると、空いた一瞬の間にスキルを発動させる。
「SSランクスキル、豪炎の爆撃をくらえっ! 業火に焼かれ爆散せよっ!」
前方にいる奴隷軍に向かって豪炎の爆撃を解き放つ。
兵士の一人が赤く光ったかと思った瞬間、そいつを中心とした広範囲に炎が広がる。
大きく広がった炎の塊が敵兵を次々と吸収していき、その炎から逃れようと逃げ惑う兵士たちも飲み込んでいく。
「爆ぜろ」
俺が空に向かって開いていた手を握って力を込めると、炎の塊が大爆発を起こして更に周りの兵を吹き飛ばしていった。
「おや?」
その爆炎の中に人間の影が見える。
「ゼロ、もしかして!」
「すごいな……」
俺のスキルを受けて、まだ立っているとでもいうのだろうか。
炎が収まってくると、そこにいる人影がより鮮明に見えてくる。
「他は灰になっているというのに、こいつだけ無事なのか……?」
人影は灰だらけで全身が黒焦げになっているが、それも表面だけのようだ。
「ふぅ、熱い熱い……」
野太い声がその人影を壮年の男性だと思わせる。
「オラの部隊をここまで潰すとは、おめぇやるなぁ」
手で身体を払うと灰が落ちていく。装備も焼けただれてしまったようで、軽く手ではたいた程度で崩れ落ちてしまう。ほとんど全裸の状態の身体は、火傷はしているようだが軽傷程度で済んでいたようだ。
「オラはコーム王国の剣奴将軍、ドレイクってんだ。こんな一方的な戦いは久し振りだぞ!」
「なんだこのおっさんは」
「ほぼ裸で……」
ドレイクと名乗った男は身体の灰をすっかり落としきると、申し訳程度にまとわりついている腰布を結び直した。
「もう着るというより付着していると言った方が近いだろう」
俺はあきれた言葉と裏腹に、あれだけの炎の中生き残っているドレイクの姿に警戒を強める。
「面白い戦いができそうだなぁ」
ドレイクは灰で汚れた顔で楽しそうに笑った。