辺境三王国
向かってくる西の大陸の奴隷軍。
「うおぉ! コーム王に栄光あれ!」
「クシィ王よ、俺に力を!」
「ブラッシュ様のために!」
奴隷たちは口々に王の名を叫んで突撃してくる。
「なんなんだこいつらは。コーム、クシィ、ブラッシュだと?」
「どうやら奴隷たちの主人、それを束ねる王の名前みたいだね」
俺の疑問に思念伝達で確認を取ったルシルが教えてくれた。
俺は向かってくる奴隷軍をなぎ払いながら考えを巡らせる。
「ルシル、西の大陸の情報が知りたい。奴らの思考から拾える物はないか。思念伝達に集中してくれればいい。後は俺がどうとでもするさ」
「いいわゼロ、やってみる」
ルシルはうなずいて俺の後ろで集中し始める。
「アガテーは隠密入影術で自分の身を守る事を優先してくれ」
「あたしもルシルちゃんの護衛に回ろうか?」
「ルシルは俺が護る。アガテーは自分の事を第一に考えてくれ。その上で可能なら敵の動きを乱してくれると俺も戦いやすくなる」
「判った」
少し不満そうにアガテーが了解する。
アガテーは身を隠す事ができない平原の中でも、旗の影や敵兵の死角をついて集団に紛れていく。
「ウィブ!」
「おおぅ。儂はどうするかのう?」
ウィブは押し寄せる敵兵を翼から生えているカギ爪で払いのけ、近付く奴は噛みついて倒している。
それに長い尻尾が相手をなぎ倒すのに役立っていた。
「上空から援護を頼みたい。襲うそぶりをしてくれれば攪乱になるだろう」
「攻撃はしなくともよいのかのう」
「それは好きにしてもらって構わないが、深追いして怪我をするなよ」
「心得た。ではの!」
ウィブが大きく羽を広げて飛び立つ。その風圧で敵兵たちがたじろいだその瞬間にウィブははるか上空へと飛び去ってしまった。
「アガテーは……うむ、もう意識しないとどこに隠れているのかが判りにくくなっているな。敵兵の影を上手く使って他の者の視界から外れる動きは流石だ」
アガテーは敵兵の背後を取りそこから魔弾を射出する。
撃たれた相手はどこから攻撃されているか判らないまま倒れてしまう。
背後を取られた敵兵は気付かないままそれを見ている他の兵がアガテーを攻撃しようとするが、アガテーは身軽にまた立ち位置を変えて他の兵の背後に回る。アガテーを攻撃しようとした兵は勢い余って味方の兵の背中を斬りつけてしまうのだった。
「同士討ちを誘発させるとはな。俺にはできない戦い方だがたいしたものだ」
俺は感心しながらも向かってくる敵兵を剣でなぎ払う。
「Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 荒れ狂う炎の竜巻に飲まれよ!」
俺は左手から風炎陣の舞のスキルを発動させる。
左手から放出された炎が敵兵を焼き、その炎が勢いを増してうずを作り次々と敵兵を飲み込んでいく。
「ゼロ、西の大陸の事が少し判ってきたよ」
「戦いながらで済まないが教えてくれ」
「うん。西の大陸でもまだ辺境の方なんだけど、奴らの出身はコーム、クシィ、ブラッシュという三カ国からなる連合軍みたいなの。王は国名と同じ、王座に就いた時には名前も引き継ぐみたい」
「それで王の名前を連呼していた訳か」
俺は敵兵を弾き飛ばしながらルシルが得た情報を確認する。
「こいつらそこそこ強いぞ」
「ゼロでも苦戦するの?」
「それは無いが、俺でなかったら結構辛いと思う」
「そっかあ。ゼロにしては珍しく額に汗が出ているものね」
ルシルに指摘されて俺も汗が出ている事に気が付いた。
「確かにな。この数はそれだけで疲労に値するという事なのかもしれないぞ」