光の帯
俺が敵の一部隊を壊滅させた後にルシルたちが降りてきた。
「どうだったゼロ?」
「どうもこうも、攻撃を仕掛けてきたから返り討ちにしたまでだ。途中延命の機会を与えたつもりだったが、相手には通じなかったらしい」
俺は死体だらけの凄惨な現場を眺める。
「これを……一人で……」
アガテーも上空で見ていただけに、この状況が信じられない様子だった。
「ゼロが本気になったらこの人数くらいじゃ止められないよ」
ルシルはそんなアガテーに言い放ったものだ。
「でもさゼロ、こんな人間たち見た事ないよね」
「そうだな。肌や目の色も違うが、着ている物や装備も俺たちが知っている物ではないな。絵巻物で見た西方の民族が持つ物のように思える」
「やっぱり。西の大陸、かな……」
「恐らくな」
俺は日の沈む方を見て思う。
こいつらが瘴気の谷を滅ぼしたというのか。ベルゼルたちを討ち取ったというのか。
「ここからだと瘴気の谷はそう遠くないはずだ。ウィブ、頼めるか」
俺は羽を畳んで座っているワイバーンに話しかけた。
「もちろん、儂の羽ならすぐだろうのう」
「心強いな。では日が落ちるまで西へ向かい、適当なところで野営しよう」
「承知した」
ワイバーンが大きく羽ばたいて、喜びを表現する。
俺は身支度を調えると、ウィブの背にまたがった。
手を貸してルシルとアガテーもウィブに乗るのを確認すると、ウィブの首筋を軽く叩く。
「捕まっておれよのう」
ウィブは俺たちの返事を聴く前から羽を広げて羽ばたき始めた。
気が付くと一瞬で上空に舞い上がっている。
「ひゃうっ」
アガテーが小さく悲鳴を上げて俺の背中に抱きつく形でしがみついた。
大きく柔らかい感触が背中を圧迫する。
「ゼロ~」
ルシルが少しむくれた様子で俺に寄ってきた。
「な、なんだよ」
上昇速度が少し緩んだというのにルシルが俺の腕にしがみつく。
「別に~」
ルシルはなぜか少し機嫌がよくなったように思える。
「ねえゼロ、あれ……」
空高く飛んだ事で遠くまで見えるようになった俺たちの目に、無数の光の点が見えた。
平原を覆うように広がった小さな光の帯。
光の一つ一つがたいまつのように見える。
「軍隊……だよね。さっき空にいた時には全然気が付かなかったけど……」
「あの合図で一斉に火を付けたか。それにしてもこの数……一万は下るまい」
「一万……!」
援軍を呼んだと言ってもまさかこれ程の大軍とは思っていなかった。
その大軍から俺たちに向かって無数の火矢が飛んでくる。
「円の聖櫃か……いや、ここは上昇して躱そう。上に行けるかウィブ!」
「当然。しっかり捕まっておれよのう」
ウィブの羽ばたき一回ごとに大きく上昇し、飛んでくる火矢はかなり下で弓なりになって落ちていく。
その中から光る魔力弾が直進してウィブの脇をかすめていく。
「ゼロ危なかったね。円の聖櫃だったらあの魔力弾は跳ね返せなかったよ」
「俺だったら中に数発混ぜ込んでおくと思ってな。これで敵の部隊に魔法を使える者がいるという事も判った。それもかなりの数が分散して」
俺は薄くなる空気の中、下に見える大軍の光を眺めていた。