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国難と臨戦態勢

 バーガルの治める瘴気の谷の魔族がどこの者とも知れない軍勢に滅ぼされたという報告を受け、執務室にいた者たちは騒然とする。


「ゼロ、どうしよう……」


 いつものルシルらしくもない。魔王の魂を宿した身としてもベルゼル討ち死にの報告に動揺が隠せないようだ。


「先遣隊として少数精鋭の部隊を送り状況を確認したい。それと平行に国の防備を固めるのだ」

「陛下、ロッホ到着しました」


 俺はロッホを王都から呼び寄せた。

 この鉄鉱山の村は俺がいる事で臨時的な本陣となっているために必要に応じて重要人物にはこの盆地まで来てもらっている。


「王国内に戒厳令を敷く。国民は全て軍の統制下に入る。そこでだロッホ、お前は警備隊を率いて治安の維持に当たれ。ただし国民の生命と財産を第一に考え外敵からの防衛を主目的として対処せよ」

「ははっ!」

「シルヴィア」

「はい」


 俺の声にシルヴィアも緊張しながら返事をした。


「商人ギルドの連絡網を使って街道封鎖をかけてくれ。流通は軍の補給として行う。シルヴィアには商人たちの統制を頼みたい。それとセシリアに伝えてくれ。ギルドの警備隊を使って補給路の確保を頼むと。警備はあまり付けられない。輜重しちょう隊には十分警戒して事に当たるようにと」

「判りましたわ」

「ピカトリス、軍の招集を行ってくれ。詳細はここに記してある」


 俺は軍の配置と編制を書き連ねた書類をピカトリスに手渡す。


鉄巨兵ゴーレムも使えるようなら投入してくれて構わない」

「それは判ったけど、ゼロ君はどうするのよ」

「俺か?」


 俺は執務室の窓を開けるとそこから身を乗り出した。


「ゼロ君危ないよ! ここは三階だよ」


 ピカトリスの制止も聞かず俺は更に窓の外へと身体を持って行く。


「ウィブ、いるか!」

「ここに!」


 上空からワイバーンの咆哮ほうこうが轟く。


「俺は偵察を兼ねて先遣隊として状況を見てくる。ルシル、来いっ!」

「うん!」


 俺はルシルの手を取り窓から飛び出した。

 落下する俺とルシルをワイバーンのウィブがすくい上げるように拾う。


「ゼロさん私も!」

「アガテー、いつの間に!」


 ウィブの背中、後方にアガテーがしがみついていた。


「偵察任務ならあたしに任せてよ!」

「そう言ってくれるとありがたいが、お前には敵を攪乱かくらんさせる遊撃隊の役目を頼みたかったんだが」

「それよりもきっと役に立ってみせるから!」


 必死に懇願するアガテー。


「どうするかのう勇者よ」


 ウィブは自分の背中の上で繰り広げられる茶番劇に笑いをこらえるのが必死のようだった。


「仕方がない、今から降ろす訳にもいかないだろうからな」


 既に盆地の上空、雲の上にまで到達している。


「まあ仕方がないか。アガテーなら戦闘になっても自分の身は守れるだろう。ん、どうしたルシル」


 ルシルが意地の悪そうに口元を歪めた。


「きっとアガテーはワイバーンに乗りたかっただけ……じゃないよね?」

「えっ、そうなのか? そうだったのか?」


 俺が焦って質問するが、アガテーは恥ずかしそうに頭をかくだけだった。

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