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強者と迫害と嫌悪

 ヒルジャイアントが三体。どれも三メートルを超える巨体で大地を震わせながらこちらに近付いてくる。


「ゼロさん……」

「シルヴィアはカインと一緒にここにいてくれ」

「そんな、私も戦闘に、少しでもお力になりたいです!」

「シルヴィアが活躍できる場所は他にある。頼りにしているからここで何かあっては困るんだ」

「……そうですか。判りました。ご武運を、ゼロさん」

「ゼロ様……頑張ってにゃ」

「おう、戻ったら温かいシチュー、頼むな」


 俺はヒルジャイアントたちへ向かっていく。


「ゼロ」


 石柱の影にルシルがいた。


「どうした」

「別に。私には残れって言わ……」

「何しているんだ、行くぞ」

「判ってるわよ!」


 俺の後をルシルが続く。これから命懸けの戦闘だというのに、なんだか浮かれているな。


「なあルシル、こいつらにも思念伝達テレパスは効かないか? 狼よりは会話する知能はあるだろう」

「そうね、さっきっから試しているけど返事無し。巨人語で話しかけてみましょうか」

「魔王の頃のスキルか?」

「スキルというより教養の範囲だけどね。これは力を封印されていても影響ないから」

「助かる、頼りにしている」

「と、当然よ、王家の者のたしなみだもの……」

「なに赤くなってんだよ」

「バッ、バッカじゃないの! 頼られて嬉しいからって赤くなったりはしないわよ!」


 ルシルは歩きながら俺の臑を蹴る。


「いってぇ~」


 俺を置いてルシルは先に行ってしまう。

 ルシルに遅れまいと俺も急ぐ。


「ルシル、奴らに話しかけてみてくれ」

「いいわ」


 ルシルはヒルジャイアントの攻撃が届かないところで話しかける。

 俺からすると理解できない言語で二言三言話しかけた。一応会話は成立しているようだが。

 ルシルは一度ため息と一緒に肩を落とすと、ヒルジャイアントに向き合ったまま標準語で俺に話しかけた。


「ゼロ、彼らは人間に対する怒りと絶望、そして復讐できる機会に巡り会えた喜び、そんな事を言っていたわ」


「理由は?」

「そこまでは」

「そうか。人間と何かあった、その恨みを俺たちで晴らそうということか」


 ルシルはうなずき、後ろ歩きで下がってくる。


「ありがとうルシル。後は俺がやる」

「手加減してあげてね」

「考えておく」


 俺はルシルとスイッチして前線に躍り出る。


 一体目。両手持ちで棍棒を振り下ろす。地面に叩き付けられる前に俺は右側へ移動し、地面にめり込んだ棍棒の上に乗る。

 そのまま棍棒を駆け上がりヒルジャイアントの両手首の腱を斬る。

 伸びきった太い糸が切れるような音がして巨人の手から力が抜けた。

 痛みで叫んだヒルジャイアントの頭を踏み台にして次の獲物へ向かう。


 二体目。闇雲に棍棒を振り回すヒルジャイアント。俺の落下点が棍棒の軌道と重なる。


重爆斬ヘビースラッシュ!」


 俺は剣を向かってきた棍棒に合わせる。相手の攻撃に俺の攻撃を上乗せして反撃する剣技だ。

 武器が重なったところでヒルジャイアントの棍棒が破壊された。

 棍棒が木っ端微塵に爆発し砕けた木片は鋭い矢となってヒルジャイアントの全身に突き刺さる。

 顔から身体まで棘だらけになった巨人が倒れてのたうち回る。


「ゼロ!」


 俺の身体も剣を合わせた勢いで空中に弾かれていた。


「判っている!」


 三体目。空中に飛ばされている俺をヒルジャイアントが両手で捕まえた。手を合わせた中に俺がいる。肩から上と膝から下は手からはみ出している状態で、巨人の手がどれだけ大きいか判るというものだ。

 ヒルジャイアントはくぐもった笑いを漏らす。あまりの口の生臭さに一瞬意識が飛ぶかと思った。


「だがそれくらいでは俺を捕まえたことにはならないぞ」


 俺は両腕を左右に押し広げようとする。徐々にヒルジャイアントのつかんでいた手が開いていく。


炎の槍(フレイムランス)!」


 俺の両手から炎の塊が飛び出す。

 ヒルジャイアントの両手から炎が吹き出し俺はその隙間からすり抜ける。解放された俺は何事もなく着地すると巨人の両手が爆発した。


「指は千切れていないようだがその重度の火傷ではまともに動かすこともできまい」


 俺は倒れている三体のヒルジャイアントを見下ろす。流石に寝っ転がっている巨人より立っている俺の方が高い。


「どうだ、人間への復讐で俺たちに八つ当たりする気持ちはなくなったか?」


 言葉が理解できるかはともかく、ヒルジャイアントたちの顔には恐怖で戦意喪失した表情が浮かんでいた。

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