操作の宝玉と鉱山の再建
鉄巨兵の中にいるのは額に一対の小さな角のある小柄な少女。
「ルシル、それは操れそうか!?」
俺は高いところにいるルシルに問いかける。
「うーん、多分大丈夫。ゼロを踏み潰すくらいなら簡単にできそうだよ!」
ルシルが言うように鉄巨兵が右足を高く上げて俺の立っている所へ踏み出す。
「ゼロさん!」
アガテーが離れた位置から叫ぶ。
鉄巨兵の足が振り下ろされ地面と激突する。
衝撃と砂煙が辺りを覆い視界が悪くなった。
「ルシルさん、なんて事を! これじゃあゼロさんが潰れちゃう!」
アガテーの叫び声が聞こえる。ルシルは理解しているから問題無いがアガテーには不思議に思えただろうな。
「ほいっと」
俺の掛け声と共に鉄巨兵の足がはねのけられる。
「わわわっ!」
ルシルは鉄巨兵ごとひっくり返って倒れてしまい、辺りの丸太小屋をいくつか潰してしまった。
俺は円の聖櫃を掛けていたおかげで巨大な鉄の塊に潰されずに済んでいたという訳だ。
「物騒な事を言うなよ……」
俺は付いてもいない埃を払う仕草をしながら倒れた鉄巨兵の上によじ登る。
「ルシル、ほれ」
鉄巨兵の胸の位置に開いた扉から中をのぞき込んで手を差し伸べた。
ルシルが俺の手をつかみ起き上がると、鉄巨兵の中から何かを取りだす。
「これだよゼロ」
何か紐のような物で鉄巨兵とつながっている球状の鉱石が鈍い光を放っている。
「操作の宝玉というやつか、ピカトリスの野郎が言っていた」
「多分。私の魔力を使わなくてもこの鉄巨兵を動かせたし、盗賊団の男でも使えていたみたいだから」
「確かにな。でもこの鉄巨兵は魔力を感じた。動くためには魔力を使うようだがそれはどうするんだろうな」
「詳しくは判らないけど魔晶石みたいな所で蓄えておくんだと思うな。そんな感覚がしたから」
なるほどな。魔力の補給は魔晶石で賄えれば、魔力の持たない者でも操作ができるのか。
「それにしてもひっくり返すなんてゼロも酷いなあ」
「その前にお前が俺を潰そうとしたんだろ」
「ちゃんと操作できるか試してみただけだよ」
「で、操作はできたんだろうな?」
「うん! ちゃんと思い通り踏み潰そうと動いたよ!」
ルシルは嬉々として返事をする。
もちろん奪う事は事前に計画していた事だからよしとして、何もそこまでとは思うが。
「まあ冗談はさておき」
一連のやりとりをあっけにとられた表情で眺めていたアガテーの肩に手を添えた。
「ルシルに隠密入影術を教えてくれたおかげで潜入と鉄巨兵奪取が楽に行えたよ。ありがとう」
「え、ええ。ああ……うん」
いまいち状況が飲み込めない様子でアガテーがうなずく。
「それでゼロ、どうするのこれ」
「ピカトリスに渡そう。国王代理として働いてくれた礼をしなくてはな……あ」
失言だったかもしれない。
アガテーが俺の言葉に反応した。
「こ、国王代理……、ピカトリス様……。やっぱり、そうするとゼロさん、いえあなた様は」
アガテーは両手で口元を押さえて言葉を飲み込んだ。
「言ってしまったからには仕方がないな。そうだ、今まで黙っていたが俺はレイヌール勇王国の初代国王、ゼロ・レイヌールだ」
「まあ薄々気付かれていたみたいな所もあったけどね」
ルシルが余計な事をつぶやくが、目を大きく見開いたアガテーには聞こえていなかったようだ。
「アガテー?」
ルシルがアガテーの肩を軽く叩く。
「えっ、えっ……え~っ!」
盆地全体に響き渡りそうな程の大声がアガテーの口から飛び出した。
別に隠していた訳では、いや、隠していたかな。
「まあ落ち着けよ」
俺は焦点の定まらない目で立ち尽くすアガテーの頭をなでてやった。
「ほへぇ……」
アガテーは力なく座り込んでしまう。
「でもこれで、当初の目的である鉄巨兵の確保と反抗勢力である熊、実際は狼だったが、それらを駆逐する事ができた訳だ。国内の安定化にまた一歩前進できたな」
「そうね……。勇者王ゼロかあ。なんか変な感じね」
「まあな」
この盆地の鉱山は再開発を行い、正規の採掘場として生活を豊かにするために使おう。
「バーガルたちの中には貴金属の細工を行える者もいるだろうか」
バーガルたちのいる瘴気の谷はここから遙か西だ。その西の方を向きながら漏らした俺の独り言は、雲一つない空へ吸い込まれていく。
空は青く高く、どこまでも続いていた。
【後書きコーナー】
今回で第一章の終了、次話からは第二章に突入です。
引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。