鉄巨兵の拳
男たちがアガテーに向かって攻撃を仕掛ける。
遠目から矢を放ち、近くにいる者は剣を振るう。
「ちっ」
アガテーの舌打ちが聞こえた。
アガテーは二本の短剣を両手にしているだけで正面切っての戦いとなると攻撃範囲からしても不利である事は間違いない。
「一気に畳んじまえ!」
「ぐひひ! 捕まえたらこいつひん剥いちまおうぜ!」
「俺から先にやらせろ!」
男たちは下卑た笑いで顔を歪めながらアガテーを攻撃する。
紙一重の所でアガテーが剣先を避け、矢の雨をくぐっていく。
「いってぇ!」
一人の男の尻に矢が突き刺さる。
「てめぇ、味方を撃ってどうすんだよ!」
「うるせぇ! 俺の矢の前に勝手に出てきたんだろうが!」
「んだとこらぁ!」
男たちは男たちで変な争いが勃発していた。
「これはいい機会かもしれないな。Rランクスキル超加速走駆発動」
俺は超加速走駆のスキルでアガテーの隣に滑り込む。振り下ろされた剣を自分の剣で受け流すだけだ。何も勇者補正のSランクスキルを使うまでもなかった。
「隠れていれば安全だったろうに、どうして出てきたんだ!」
俺はアガテーに詰め寄る。俺とアガテーは背中合わせになって男たちからの攻撃を弾き返していく。
「どうもね、こんな奴らに熊を名乗られるとどうも我慢ができなくってさ!」
アガテーは飛んできた矢を短剣で打ち払い、寄ってくる男の手首を斬り割いた。
「まったく。それなら初めから一緒に戦えばいいのに」
「そんな事言っても……。腹が立って大人しく隠れてなんかいられなかったんだよ」
俺も男たちの腕を斬り落とし首を刎ねていく。
「な、なんだこいつら……」
「バケもんか!」
一方的に包囲戦で有利に進めようとしていた男たちは俺たちの強さに戸惑いを隠せないでいた。
「くそう、こうなったらあれだ! おめぇら奴らを足止めしておけっ!」
「まさかあれを……」
「そうだ、今使わなくていつ使うんだよ!」
男の一人が倉庫のような建物へ向かっていく。
「ちくしょう、おい俺らでここを食い止めるぞ!」
「おう、仕方ねぇ」
男たちの戦い方が変わった。
闇雲に突進してくるのではなく、あからさまに退いて守りを固める戦い方だ。
「連携は取れていないがこいつらの戦闘力はそう低くもない。それだけに守りに入られると厄介かもな」
「はぁ、はぁ。そうね……」
息を切らせながらアガテーが短剣を構え直す。
「大丈夫か、まだ行けるか」
「ええ。あたしは最後の熊よ。これくらいで音を上げたりはしないわ」
多少は切り傷もあるようだが深手は負っていないようだ。
後で簡易治癒でも掛けてやろう。
「ねえゼロさん」
俺たちの上に影が落ちる。
「ちょっ!」
俺はアガテーを小脇に抱えて急いでこの場を離れた。
そのすぐ後に俺たちのいたところへ巨大な鉄の塊が落ちてくる。
「あのままいたら潰されていた……」
アガテーが血の気が引いた顔で俺を見た。
「これは……拳?」
地面に叩き付けられた鉄の拳。腕、肩と見上げていくと、そこには鉄でできた巨大な鉄巨兵がそびえ立っていた。
立ち上がったその姿は、俺たちの十倍程の高さがある。
「なんてでかさだ……」
流石に俺もドラゴンよりも大きいだろう鉄巨兵の姿を見て息を呑んだ。