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狼の遠吠え

 俺の後ろには燃え盛る小屋。前にはこの集落を占拠している武力集団。


「ルシルたちは隠密入影術(ハイドインシャドウ)で身を潜めたかな」


 意識すれば判る程度で俺ですら先頭に集中したら気付けなくなるかもしれないが、ルシルもアガテーも小屋から離れて他の建物の影や立ち木の後ろに隠れている。


「奴はこっちから出てきたぞ! 正面口にいる奴ら裏に回ってこい!」


 俺を包囲している男の一人が声を張り上げた。

 その声を聞いて間を置かずに武装した男たちが集まってくる。


「さてと、二十人くらいか。その程度の武力で俺は止められないが、さてどうするね」

「ど、どうするとはなんだ! 大した自信だな、あぁん!?」

「まあ折角だ、お前たちの言い分を聴こうじゃないか。どうしてお前たちは街道の人々を襲うんだ。見れば鉄製品なり鉄器具なりを造っているのだろう? 真面目に堅実に暮らしていれば何も問題は無かったものを」

「じゃかあしやい! おめぇに何が判るってんだ!」


 俺は戦意を持っていないように見せかけるため剣を鞘に納めた。


「なっ……!」

「俺は元から戦いに来た訳ではない。お前たちが街道を行き来する人々の脅威となるのであればそれを排除しなくてはならないが、そこに正当な理由があるのなら聴かない事もないぞ」

「なにおぅ!」


 男たちは額に血管を浮き出させて吠える。


「俺もレイヌール勇王国に暮らす者だ。そう思えばこの地域に住むお前たちも同じ国民と言う事だからな。なるべくなら同国民での争いは避けたい」

「こちとら国なんて関係ねぇんだよ! 俺らはそんな腐った王になんて仕えねぇし、勝手に生きていくだけよ!」

「だがその勝手が困る。無辜むこの民がお前たちの餌食えじきになっているようではな」

「じゃかあしい! 持っているところからいただく、それが俺らの生き方よ!」


 俺は一つ深いため息をつく。


「折角鉄があるんだ。働いて生きようとは思わないのか」

「はんっ、この鉄だって実際に掘ってるのはそこいらへんをうろついていた旅人や商人たちだぜ。俺らはそいつらが掘り出したり作ったりした物を使ってるだけだからな!」


 その中で小遣い稼ぎに鉄器具を持ち出して近隣の町に売りさばいたりもしたのだろう。無計画に流通させるものだから値崩れを起こしてそれが更に収入の減少から略奪に向かうのか。


「お前たちが熊である可能性も考慮してここまで穏便に進めてきたが、どうやらそうでもなさそうだな」

「熊ぁ!? なんでおめぇにそれが判るんだよ!」

「ん? お前たちは自分たちが熊であると思っているのか?」

「おおさ、俺らが熊だ! この辺りを武力で震え上がらせる熊と言ったら俺らのこ……」


 しゃべっている男の喉元からいきなり短剣が生えて出た。


「ごっ、ごぽっ……」


 男は喉と口から血を吐きながら何かを言おうとしているが喉を背後から短剣で突き刺されて声が出せない。


「お前たちが熊を語るな」


 アガテーが立ち木から飛び出して後背からの影撃(バックスタブ)で致命傷を与えた。


「こいつ!」

「どこから!」


 色めき立つ男たちとは違って冷静に、そして鋭い視線をアガテーが投げる。


「暗殺者が姿を見せたんだ。本物の熊の力をその目に焼き付けて死にな」


 アガテーが短剣を男の首から抜くと男はゆっくりとうつ伏せに倒れた。

 アガテーの短剣には血糊が付いていない。身体から抜くと同時に拭き取ったのか、器用な事をする。


「ちくしょう、やっちまえ!」


 男たちが一斉に飛びかかってきた。

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