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偽りの饗宴

 俺たちは案内された集会所で休息を取る。

 とはいえ形だけだが。


「潜入はできたとみていいだろう」

「そうね……。でもさ、この隠密入影術(ハイドインシャドウ)ってすごく気を使うのね。魔力とはちょっと違う、なんて言うか……気疲れみたいな?」

「そうなのか。足運びとかもそうだろうけど精神力によるところが大きいのだろうな。それでも俺だって気を配らなければ認識できないくらいのものだったぞ」


 俺はルシルの頭を軽くなでてやる。


「へへ。付け焼き刃にしてはなかなかだったでしょ?」

「そうだな、よく頑張ったぞルシル」

「えへ~」


 はにかむようにして嬉しそうにしているルシルとは反対に厳しい視線を周りに向けているアガテーがいた。


「この小屋は家具らしい家具が無いね。本当に集会所として使っているなら椅子やテーブルとかがあってもよさそうなものだが」

「アガテーもそう思うか? 中央に囲炉裏があるのに煮炊きする道具が無い。せいぜいあるのは部屋の隅に積まれている薪くらいか」

「そうね。奴ら本当にここを集会所に使っているのかしら。確かに集落の中心にあるようには見えたけど」


 それは俺も少し疑問に思っていた。生活感があまりないのだ。だが荒らされたとか急いで片付けたような感じは見られない。


「まるで無人の村に後から入ってきたかのような……」


 俺がつぶやいているところに集会所の扉が開いた。


「お待たせしましたかな?」


 さっきとは別の男だ。屈強な壮年の男が何人もいるという事だろうが、女性や子供の気配は感じられない。

 ルシルたちは後ろの薪の山に急いで隠れた。


「おや、話し声が聞こえたような気がしましたが」

「ああどうも一人旅が長くなると、独り言が多くなってね」

「そうでしたか、そうですよね。お一人ですとそういう事も判ります」


 男はそう言いながら小脇に抱えた袋を置く。


「追い剥ぎに遭ったって聞いたんでね、こんなもんしかないが元気付けてくれ」


 包みを広げると中にはパンとハムと水筒があった。


「悪いな、こんな親切にしてもらって」

「いいってことさ。ここは出稼ぎの男所帯なもんでな、固いパンと山で捕れる肉くらいしか食いもんが無くてな」

「今の俺にはごちそうだよ、ありがとう」

「いいってことさ」


 男はそう言い残して小屋を出て行く。


「ん?」


 男が出た後に鍵の掛かるような音がした。


「ゼロ、これって……」


 俺は広げられた食べ物を一口食べてみる。


「やっぱりな、舌がピリピリするぞ。香辛料とかそういう物ではなくて……」

「毒?」

「ああ。しびれ薬の類いだろうな」


 俺とルシルが平気で話していると、アガテーが割って入る。


「すぐに吐き出しなよ! 毒なんて口にしたら大変な事になっちゃうでしょ!」

「そうだな」


 俺は口に入れたハムを吐き出すと、囲炉裏の灰の中に埋めた。


「ゼロ、でも」

「いいんだ」


 ルシルは俺が完全毒耐性を持っている事を知っているから俺の行動が奇妙に映ったのかもしれないが、アガテーがいる前では一般人を装うと思ったのだ。

 説明が面倒くさいから。


「大丈夫? まだしびれてない? これ」


 アガテーは自分の腰にぶら下げていた水筒を取り出すと俺に手渡す。


「あいつらが持ってきた水筒は中に何が入っているか判ったもんじゃないから」

「ありがとう」


 俺はアガテーの水筒から一口水を含んで口をゆすぐ。

 囲炉裏に吐き出すと、灰が大きく舞ってしまった。


「ごほっ、す、すまん……」


 俺が咳き込みながら手で舞った灰を拡散しようとした時、ルシルがつぶやく。


「何か焦げ臭くない?」

「灰でも吸ったのかな」


 アガテーはそう言いながらも辺りの様子をうかがう。


「見て、小屋の壁!」

「燃えて……いる!?」

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