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宿屋代わりの集会所

 カルデラの壁を降りて内側に入る。ルシルはアガテーから隠密入影術(ハイドインシャドウ)を教わったようで、まだ使いこなせていないながらも気配の消し方が巧くなっていた。

 アガテーいわく、素人にしては上出来だそうだ。


「確かに意識を集中しないとそこにいる(・・・・・)事を認識しにくくなるな。これが潜伏術なのか」


 ルシルもアガテーも俺の後ろについてきているのだがその存在感もほとんど薄れてしまっていて、知っている俺だからこそ判っている状態なのかもしれない。


「はぁ、はぁ……」


 俺はわざとらしく息を荒らげながら歩く。前方から集落の人間が見えたからだ。


「おやどうなさった、そんな着の身着のままで」


 壮年の男性が俺の存在に気が付いて話しかけてきた。


「森を……追い剥ぎに身ぐるみ剥がされて……。森の中をがむしゃらに逃げてきたんだ……」


 男性は人のよさそうな笑顔を見せて近付いてくる。

 敵感知センスエネミーの発動はない。俺への敵意は持っていないようだ。


「それはお困りでしょう。この村は貧しいですが安全に暮らせるいいところです。宿屋はありませんがよければ村の集会所に案内しましょう。旅の方が休まれるくらいには使えると思いますよ」

「助かります……。俺は何も渡せる物がないですが」

「いいのですいいのです、旅の方が一人くらい(・・・・・)大丈夫ですよ。まずは身体を休ませてからで、ね」


 俺は男性が案内するまま集会所へと向かう。

 ルシルたちは俺の後をついてきているが男性には認識されていない(・・・・・・・・)


「さあここですよ。村の中心にあるから何かあったらすぐ誰か駆けつけますから、安心してくださいね」


 小さな掘っ立て小屋だがそれなりに広さがある建物だ。

 基本的には丸太で組まれているがところどころに鉄材が使われているようで頑丈さはあるように見える。


「これは助かる……」


 俺は入り口の扉をくぐると小屋の中に入った。

 中は土間と部屋に分かれているが仕切りなどはなくただ大きな広間になっている。

 中央には囲炉裏だろうか、小屋の中で火が使えるようになっていてその煙を逃がすように天井は二段階の屋根になっていた。


「少ししたら食事を持ってこさせましょう。大したもてなしはできませんが、ゆっくりはできますよ」

「ありがとう、恩に着ます」

「なあに森の中で迷われたのならもう私ら森の仲間と同じですよ」


 愛想よく笑うと男性は小屋を出て行った。


「罠……ではなさそうね」


 アガテーが俺の側で座っていた。

 見ればルシルも同じように俺の近くで小屋の中を調べている。


「すごいな隠密行動というものは。そこにいるのに相手には気付かれない。知っている俺でも少し気を抜けば見つけるのも困難なくらいだ」

「それはどうも。まあだから不意打ちができるのだけどね。建物や人、洞窟の壁の隙間とか、まぎれる物があればどこでだって身を潜めることができるわ」

「味方なら頼もしいがな」

「そうね、努力してあたしの敵にならないようにしてよね」


 アガテーは挑発的な視線を俺に投げてきた。


「極力、そうならないようにしたいよ」


 俺は小屋を探索しているルシルを見る。

 ルシルは無邪気に俺に向かって微笑んだ。


「そうだな……」


 ルシルが本格的にこの技を使いこなせるようになったらと思うと、少し俺も気を引き締めなければいけないかもしれない。

 思念伝達テレパスもそうだが、ルシルに内緒はできなくなりつつあるな……。

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