鉄器具の値下がり
俺たち三人は装備を整え直し街道近くに巣食う狼の拠点を探す。
街道の宿場町で宿を取り情報を収集しつつ次に向かう場所の目星を付けているところだ。
宿屋の部屋でテーブルに地図を広げ、その周りに俺とルシル、熊の行きの頃と自称する巨乳の暗殺者アガテーが囲んでいる。
「ゼロさんってあれだね、新しく興ったレイヌール勇王国の国王様と同じ名前じゃないか」
アガテーが親しげに俺の肩へ腕を回す。
身体を密着されるとアガテーの女性らしい匂いがふんわりと漂ってくる。
それに押しつけられる胸のボリューム。
「ちょっとアガテー、ゼロから離れなさいよ!」
「ごめんごめん、ルシルさんもそんなに怒んないでよー」
おどけて俺から離れるアガテーに代わって、ルシルが俺の袖をつかんで離さない。
「奴らの拠点がどこにあるか判らん。あまりはしゃいでくれるなよ」
「はいはーい」
どこかつかみ所のない返事をアガテーがする。
出会った当初とは違って大分打ち解けてきたのはいいのだが、それもアガテーの演技かもしれないと思うと素直に心を開く事も難しいかもしれない。
「大丈夫だよ、所詮奴らは狼。熊の振りをした弱者の集団でしかないからさ」
「そうは言っても数は力だ。俺もそれは重々承知している」
自分で言っていてなんだが、確かに数は驚異だ。
一対一では俺も負ける気がしないものの、多少面作戦を取られると俺一人ではどうしようも対処ができない事は経験済みなのだから。
「そのためにも自衛手段はそれぞれで持ってもらわなければならないのだがな……」
「ん、何か言ったかいゼロさん?」
「いや何でもない」
俺は国を荒らす連中が許せなくて義憤に駆られて立ち上がった冒険者、という事にしている。
国王だという事を伝えてそのような待遇を受ければ確かにやりとりは簡単になるだろうが、狼の連中の情報網に引っかかる可能性も高まると判断したのだ。
相手が裏社会で活動するのであれば、俺も隠密行動で対処しようと思う。
「鋳造設備があるというところを考えると、人里離れた場所と言っても鉄が採れるとか鉄器具が出回っている宿場町の辺りを探るという方が現実的かな」
俺たちは街道を基準にして、各宿場町での流通している商品の取り扱い量などを調べて回る。
「レイヌール宮殿からムサボールの町を結ぶところで何カ所か鉄器具の安いところがあるな。釘や蹄鉄などの一般的な道具だが」
「ゼロさん、それがどうしたって言うんだい? 安いところがあっても別に変じゃないよね」
「たまたまという事もあるだろう。だがユクモ山に近い宿場町ばかりが鉄器具の値下がりが激しい。となるとこの辺りで鉄が余っていると思われるのだが特に鉄の採掘が盛んな場所は、知る限りでは存在していないのだよ」
「へぇ!」
アガテーが感心して俺を見る。
テーブルに両手をついてしたから俺をのぞき込むような格好で、その体勢から胸の谷間が強調される形になった。
「ゼ~ロ~」
なぜかルシルが過剰に反応して、つかんでた俺の袖ではなく俺の腕をつねってきた。
「いたたっ! こらルシル、何するんだ」
「べ~つに~」
まったく急に不機嫌になるものだから困ったものだ。
俺たちは鉄器具の値下がりが激しい地域の近くにあるユクモ山を目標と定め、その日は休むことにした。