多くても群れない
俺は肩の外れた巨乳女を後ろ手に縛り上げる。
元々大きな胸が更に強調される形になった。
「ねえゼロ、ちょっとやり過ぎなんじゃない?」
ルシルはそう言うが、ちっともやり過ぎな事はない。こいつは俺を殺そうとしたし、盗賊の頭を吹き飛ばした事からその実力はかなりのものと判断していい。
「まだ甘い。猿ぐつわを噛ませておきたいくらいだが、それでは質問に答えられなくなるからな」
「だったら私が思念伝達を使うよ」
「いいのか? それなら助かるが」
俺は女が武器を使えないように布で口をふさいだ。
「盗賊の生き残りは一人か。他は皆息絶えたようだが……それではルシルこの女に聴いてみてくれ、ここにいた理由を。どうして盗賊を殺したのかと」
「うん……」
ルシルが思念伝達を使う。うっすらと閉じた目が意識を集中している事を示していた。
「ゼロ、自殺するつもりはないし、こうなってしまったら私たちを攻撃する意思もないって、そう考えているみたいだけど」
「信用してもいいのだな?」
「多分ね。魔王の能力が戻ってから思念伝達で質問した事には嘘をつけないみたいだから」
「そんな精神攻撃ができるのか!?」
恐ろしいな。ルシルには隠し事ができないではないか。
「でも精神防壁とか抵抗能力で私のスキルを上回ったら、何も聴けなくなるみたいだけどね」
「そ、そうか。まあ俺はルシルに隠し事なんかないからな、そう気にはしていないが」
「だよねぇ?」
「も、もちろんだ」
「うんうん、ゼロがこの女のおっぱいばっかり見ているの、私知っているから」
「なっ!」
いつの間に俺の思考を読んだんだ!?
「冗談、という事にしておくね」
ルシルの表情は冗談を言っているようには思えない。本当に恐ろしくなってきた。
「さてと、じゃあこの女が考えていた事だけど、どうやら熊というのは本当らしいよ」
さらりと核心を突く言葉を口にする。
自殺する意図はないと確認が取れたので、俺は女の猿ぐつわを外して会話ができるようにした。
「その辺り、詳しく聞かせてもらえるかな?」
女は首のこりを取るかのように頭をぐるりと回す。
「解放してくれないかな」
「まずは信頼を勝ち取る事から始めるといい。それで、お前は熊なんだな」
女は一瞬考えるような顔を見せたがため息を一つついてあきらめたように肩を落とす。
「そうだよ、あたしはアガテー、熊唯一の生き残りだ」
「生き残り? 熊は盗賊団じゃないのか?」
「ちっ」
暗殺者の女、アガテーは舌打ちをして地面につばを吐く。
「よしてくれ、あんなのは熊じゃない」
「だが熊は人を襲うでしょ、なんでそんな悪い事をするのよ」
ルシルがアガテーの言葉に噛みついた。
「熊に善悪はない。ただ本能のままに生きるのみさ。熊は元々傭兵の事を言っていたんだ。一騎当千の猛者が熊と呼ばれていた。熊が一人いればその戦場は勝ったも同然だからだよ」
「ほう、すごいものだな」
「ゼロにはかなわないけどね」
ルシルが少しむくれたようにも見えたが気にしない。
「だから傭兵に、熊に善悪はないんだよ。金さえもらえれば悪党の手伝いだってする。村を襲ったりもするわけさ」
「単騎の傭兵か。いろいろな戦場では噂にもなるが、まさかそれが熊だとはな」
「だがいつしか熊も群れるようになった。大きな戦場や町に買われた熊は集団になっていった。だが熊は群れない、群れるのは狼だ!」
アガテーは苛立ちを隠さずに悪態を吐いて捨てる。
「狼は熊のふりをして勢力を広げていった。熊の威光を利用して、な。狼に成り下がった奴らはもはや熊とは呼べない」
「それで狼退治をしていた、という事か」
「そうだ。熊は群れない」
俺たちが熊だと思っていた盗賊団たちは、アガテーが言うには狼だと。
どうやら面倒な事になってきたようだ。
俺はアガテーと同じように後ろ手に縛った盗賊の生き残りを見た。
怯える姿は、アガテーの言葉を肯定してるようにも見える。
「ルシル、ちょっとこの生き残りにも今のこの女の話が本当か、思念伝達で聴いてみてくれ」
「いいわ、判った」
ルシルが精神を集中して思念伝達を使う。
どういう答えが返ってくるか、俺はルシルの言葉を待った。