魔弾の射手
俺の目の前で盗賊団の男の頭が弾け飛んだ。
「誰だっ!」
辺りを見回すが気配は感じられない。
俺に対しての殺気が無いのか敵感知の発動しない。
「ひぃっ!」
座り込んだもう一人が頭を抱えてうつ伏せになる。
俺は辺りを見回す。
草原に荷馬車が二台。俺の荷馬車と盗賊団に乗っ取られていた荷馬車だ。
「ルシル、何か感じないか」
「思念伝達を使ってみる」
「頼む。だが無理はするなよ」
「うん」
俺たちの荷馬車から俺の側に来たルシルと小声で話をする。
俺の周りには怪我人と死体だ。盗賊団に殺された商人の死体が転がっている。俺が片腕を凍結させた盗賊は腕を押さえながらうめいて転げ回っていた。逃げようとした男は足を氷の槍で切り落とされて出血多量でもはや動かない。
目の前には今しがた頭部を破壊された奴と、頭を抱えてうずくまっている奴がいる。
「遠距離でこれだけの精密射撃……。だがなぜ俺を狙わない……」
口封じにしては違和感がある。盗賊団の仲間なら俺を狙う方が早いだろうに。
「ゼロ見つけた。左前方の木の切り株、あそこにしゃがんでいる奴がいる」
「了解。敵感知が発動しないところを見ると俺への敵意は無さそうだが」
俺とルシルは小声で情報を共有する。
「気をつけて」
「ああ」
俺はルシルが教えてくれた切り株を意識する。
視線は投げない。相手に気付かれる恐れがあるからだ。
「なるほど確かに何者かの気配がする。おいお前!」
「は、はひっ!」
俺はもう一人残った盗賊に剣を向ける。
「死にたくなかったら熊の事を話せ。今ならまだ命だけは救ってやれるかもしれないぞ」
俺の言葉に盗賊は堪忍したのか、口を開こうとした。
「来たな!」
俺は剣を払う。
「ひゃぁっ!」
盗賊は驚いて更に縮こまるが俺の剣は盗賊とは別に切り株と盗賊の間の空間を振り抜いた。
激しい金属音が辺りに響く。
俺の持っていた剣が折れて弾け飛ぶ。やはり盗賊から奪った剣では受けきれなかったか。
「魔弾……魔力矢弾かそれに類する物か」
俺は切り株の辺りから放たれた魔力矢弾を剣で打ち払ったのだ。
魔力を帯びていないただの鉄の剣では破壊されながら跳ね返すのがやっとだった。
「そこにいるのは判っているぞ! 今なら命を奪わずに棲むかもしれない。姿を現しその目的を述べよ!」
俺は切り株の裏にいるであろう者に呼びかける。
正直言えば次の攻撃を弾き返す事は、手にしている折れた剣では難しいだろう。
俺のスキルを使えば別だろうが。
「出てくるか、それとも俺に討ち滅ぼされるか! 選ぶなら今だぞ!」
俺が声を大にして呼びかけた。
これで出てこなければ、どうしたものか。
「出てこないね」
「まあ当然と言えば当然かもしれないが。俺に敵意を向けていないという事は、盗賊団に対抗する者かそれとも盗賊団のお目付役か、そんなところだろうな」
俺は盗賊の生き残りを背後に置き、切り株の奴が直線で攻撃できないように立ち位置を変えた。
「ルシル、この盗賊を見張っていてくれ。ここまで戦意喪失していれば逃げるとは思えないが、念のためな」
「判ったわゼロ」
ルシルの了解を得て俺はスキルを発動させる。
「Sランクスキル超加速走駆発動、疾く走り瞬時に距離を超えよ」
俺は瞬間的に切り株の裏へと移動する。
短距離であれば時間を止めて動いたかのような錯覚を相手に感じさせる程の速度だ。
「投降しろ、お前に勝ち目は無い」
俺は切り株の裏にいた奴の背後から左手を首に回し、右手は短剣を胸元に当てた。
このまま押し込めば心臓を一突きにできる。
「胸?」
右手は心臓の真上に添えているが短剣の刃渡りよりも大きな肉塊がそれを阻んでいるかのようだった。
「おいお前、そんな短い刃物じゃああたしの急所は刺せないぜ」
「どうかな……。その大きな胸ごと貫く事はできると思うが?」
この押しつけている肉の感触は、どう考えてもおっぱい……だよな。
俺は巨乳の暗殺者の背後から抱きしめた格好になっていた。