再開発と再連携
レイヌール宮殿。俺の出発点となった場所で俺を王と見てくれている者たちが集った町。
町は活気にあふれ豊かに暮らしている上に、統制の取れた警備兵もいて治安はいい。
町は城塞都市ガレイと同じように市民がギルドを作ってその長たちが合議制でまとめていた。
「王だなんて言ってもお飾りみたいじゃないか」
俺の軽口をルシルがたしなめる。
「そんなこと言うもんじゃないわよ。みんなゼロを頼って集まっているのだし、ゼロがいなかったら出会わなかったんだよ。そうじゃなかったら生活だってまともにできていたものか……」
「そうだな、すまん」
俺が素直に謝るものだからルシルの方がまごまごしてしまう。
「べ、別に謝らなくてもいいけどさ、みんなゼロの事が好きでここにいるんだし、ゼロを好きな人たちの姿や生活ぶりを見て集まってきている人たちだって多いんだから。王様がしっかりしてくれなくちゃ!」
ルシルは俺の背中を軽く叩く。
「ああ。それで、これからはどうするんだっけか?」
俺は宮殿の執務室で書類の山に埋もれていた。
いろいろな相談や悩み事、トラブルなどが寄せられているのだ。
「午後は陳情と裁判かな。こういった実務的な事はベルゼルが得意なのにねー」
「その魔族の副官はどこ行ったんだ?」
「今は瘴気の谷の魔族を統括するのにバーガルの補佐をしているって言ったじゃない」
「ああ、そうだったな」
瘴気の谷のあのドワーフの遺跡を改築して暮らしている魔族たち。教団は解散したが統治という点ではバーガルがそのまま王として魔族たちを治めている。
「あの土地は地上に出ても瘴気があるからな……」
瘴気のせいで作物が育たなく、食うに困って領土拡大を狙っていたという理由もあったので、ベルゼルが国王を補佐して生きる術を模索していたところだ。
「バーガルたちもドワーフ細工を見よう見まねで作れるようになったらしいからな」
俺は瘴気の谷の報告書を取り上げて確認した。
「石材とか金属細工は飛ぶように売れているみたいね」
「加工品はドワーフから直接教われないとはいえ、お手本にする物には事欠かないだろう」
「それに信用できる者が目を光らせていれば私たちも安心だから」
ルシルが言うように、バーガルたちだけではまた何をしでかすかわからない。だが統治者の首をすげ替えて起こる混乱もなるべくなら避けたい。
「ベルゼルの政治力と戦闘力なら安心だな」
「でしょ」
「豊かになれば変な気も起こさないだろう」
瘴気の谷の南にはマルガリータ王国のララバイたちもいる。
「マルガリータも広大な穀倉地帯を活用できているようだし」
マルガリータと瘴気の谷で商人たちが行き交い、特産品の流通も始まったと別の報告書には記されていた。
初めはもちろんうまくいかなかったようだが、最近はなかなか順調に進んでいるみたいだ。
「妖魔の森も復興し始めたようだし、西方は安定してきたみたいだよ」
「そうなると西方と東方で交易を行いたいな」
「うん、セシリアたちもガレイからの街道を整備するって言っていたし、ムサボールの町とも道を広げたり宿場町を作ったりして行き来を楽にするように計画しているみたい」
「そうかそれは楽しみだな。品物が流通してみんなの生活が豊かになるといいな」
「そうだね。そのためにもこの書類に目を通してもらわないと」
そう言いながらルシルは書類の山へさらに書類の束を上乗せした。
「おいおいこんなに急には……」
俺がうなだれているところに扉をノックする音がした。
「どうした、入れ」
俺が許可を与えると、扉を叩いた主が入ってきた。
「勇者王陛下、大変です!」
飛び込んできたのは守備隊の隊長で、着ている鎧には血がべっとりと付いていた。
「何事か!」
「ああ、ルシル様もいらっしゃいましたか……これは都合がようございます」
「何だ、早く申せ」
「ははっ、建設中の街道で熊が出まして……」
熊!?
「隊長、お前のその血は……」
隊長は自分が血まみれになっていた姿を今気づいたかのように驚いていた。
「これは……隊員を担いで逃げた時に付いたものかと……」
「その隊員はどうしたか」
あまりよい返事は期待しなかったが。
「はっ、残念ながら……熊になったのでとどめを……」
「熊に、なった!?」
あまりの意外さに素っ頓狂な声を上げてしまったが、熊になるとは俺の想像の通りだと面倒なことになりそうだ。