食糧難はショックなんですから
野営地に戻りつつ食べられそうな木の実や草の根を探して歩いた。
俺が鹿を担いで運び、皆が他の荷物を持ってくれている。
国境を出てからルシルの技能の吟味で調べてもらったが、俺は新たに王者の契約者というスキルを獲得していた。
これは基礎能力そのものが上昇する常時発動のスキルで、勇気の契約者との重ね掛けも可能だ。
獲得したての頃は力加減がうまくできなくて物をつかみ損ねたり握りつぶしてしまったりと大変だったが、今はそれももう慣れて生活に支障は無い。
そのおかげで、多少大きめな鹿でも軽々と運ぶことができる。
俺は歩きながら木に絡みついている蔓と特徴的な葉を見つけた。
「この蔓、イモかな?」
蔓をたどって土を掘り返すと大きめのイモがいくつも出てくる。
「やっぱりイモだ」
「もっといっぱいありそうだねゼロ」
「でも持ちきれないから今日は運べるだけ掘ろう。また今度来ればいいさ」
「そうだね」
カインが仕留めてくれた鹿だけでも食料としては十分。その上こうして採取できる食べ物も多い。
「案外拠点としてはいい立地なのかもな。水場も近いし」
近くにはそこそこ川幅の広いアボラ川があって水や魚には困らないだろう。
「結局全員で食べ物探しだったねゼロ」
「そうだな、今までずっと保存食で暮らして何するにも荷馬車の近くだったからな。散歩みたいでいい気分転換になったよ」
森から出て野営地の丘が見えてきた。
石柱をうまく使って天幕を張り、その周りに荷馬車から降ろした樽などの生活道具も置かれている。
荷馬車の脇では馬がゆっくりと草を食べていた。
「設営ありがとうシルヴィア」
「いえ、細かい荷物を置いただけですわ」
「急ぐにゃ~」
カインが丘を駆け上る。俺たちはその後を付いていった。
「今回の戦利品はかなりのものになったな」
「じゃあ私火を熾すね。火粉舞!」
ルシルが着火魔法を唱える。火の粉がいくつも薪の上で踊りそれが火となって辺りを照らす。
「なら俺は暗くなる前に鹿をさばくか」
そろそろ夕暮れも近い。
俺が鹿の解体作業を始めシルヴィアとカインが水汲みに行く。
「今日は鹿肉のシチューだね」
俺が切り取った肉をルシルが鍋に入れて持っていった。
「温かい食事は久し振りだな」
「そうだねぇ。おいしく作るから、シルヴィアさんが」
「なんだルシル、お前は作らないのか」
「私は食べる専門です」
シルヴィアが水汲みから戻り、石を積んで作ったかまどに鍋を乗せてシチューを作り始める。
鍋からいい匂いが湯気と共に立ち上る。
「この匂いに誘われてきたという事でもないのだろうが野営初日から来るとはな。こちらの都合などは考えてくれないという訳だ」
耳の奥がかすかに痛む。敵感知が俺に危険を知らせる。
周りの森に目を向けると、焚き火の光を反射する物がいくつも見えた。