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勇者倒れる

 芋虫に小さな手が生えたような物体がのたうち回っている。


「よくも、よくもっ!」


 小さい物体が甲高い声でわめき散らす。


「これが……星帝せいていか……。こんな小さくて醜い生き物が……」


 俺が剣の先で芋虫をつつくと、俺の背後で小さい悲鳴が上がった。


「こ、こんな奴が星帝様……!」


 バーガルがおののきながら床の芋虫を凝視する。


「そんなはずが、そんな馬鹿な……!」


 俺はバーガルのうろたえる様子を見ながらその隣の司教の様子が気にかかった。

 芋虫と言うよりは苦虫をかみつぶしたような表情だ。


「おい司教、お前まさか」


 俺が司教に向かってにらみを利かせる。


「こうなってしまっては致し方なし。推察の通りだ勇者よ」

「司教様、何を言って……」

「バーガル王、そなたはよく働いてくれたが、詰めが甘かったな」


 司教はすがりつこうとするバーガルを足蹴にした。


「今回の黒幕はお前か、司教」

「最後の仕掛けも見破られてしまった。この計画のために何年、何十年かかったことか……。それを今、台無しにされてはもはや笑うしかあるまい!」


 司教は広間に響く程の高笑いをする。


「聴くに絶えん」


 俺は剣撃波ソードカッターのスキルを発動させた。

 俺の払う剣から衝撃波が発生し、司教の首を跳ね飛ばす。


「こんな奴に踊らされていたとは、まったくここの魔族はとんでもない奴を信じたものだな」


 俺は血しぶきを上げて倒れ込む司教を尻目に、ルシルの元へと戻る。


「大丈夫かルシル」


 俺がルシルの肩を抱き寄せると、ルシルはゆっくりと目を開けた。


「ゼロ……」

「ようやくお目覚めか、眠り姫」


 またしても響き渡る平手打ちの音。


「助けてくれてありがとう!」

「お、おう。どういたしましてだ。だがなんで俺がひっぱたかれなくてはならないんだ……?」


 ルシルは袖口で自分の口を拭っていた。


「あ、ああ……。あの、なんだ……」


 言葉がうまく出ない俺にルシルが鋭い視線を投げる。

 ああ、やっぱりあれが……口で吸い出したのがよくなかったのかなあ……。


「ゼロ! ゼロ!」


 ルシルの叫び声を聞きながら俺の視界が回転した。

 穴の空いた天井が見える。


「ああ、今更になって脇腹のが……」


 思い出したかのように俺の口から血が溢れて、脇腹からも大量の血が流れ出てきた。

 仰向けに転がった俺に、ルシルやセシリアたちが駆け寄ってくる。


「ゼロ!」

「婿殿!」

「ぜろさん!」

「ゼロ様~!」


 ルシル、セシリア、シルヴィア、カイン……。他の女の子たちも無事だろうか。怪我は回復のスキルをかけてやらなければ……。

 こんな所で倒れてはいられない。

 そうだ、俺は勇者なんだ……。困っている人を助けて巨悪を倒す……。国に裏切られた俺は、権力を笠に着て普通に日々を暮らしている人を困らせるような奴を倒すんだ……。

 魔族だって妖魔だって、時勢を見誤った先導者や私腹を肥やす事にしか興味のない支配者に虐げられているのなら……もう不当に解雇されるような世の中は……ごめんだ……。


 そして俺の意識は暗闇に溶けていった。

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