降臨の星帝
強烈な光に教団の連中の詠唱が止まる。
一瞬の光が収まった後、目に見えて今までと異なる点は。
「ルシルの角が……戻っている」
レイラの額にあった一対の角が、今はルシルの元に戻ってきていた。
「これで奪われた力は戻ったと言うことか……ルシル、ルシル聞こえているか!」
俺はルシルの耳元で話しかける。
詠唱が止まっているためにルシルの苦しそうな表情は消えていた。
「セシリア、教団の奴らの儀式を止めてくれるか!? これ以上ルシルに負担をかけたくない」
「あの偉そうな連中の口をふさいでこようか」
「ああそれで構わない。なるべく手荒にはしないで欲しいが」
「意図は理解しているさ。これ以上の流血は避けたい、だろ?」
「察してくれて助かる。レイラもあの状態だ」
セシリアは広間の中心に陣取る教団の連中に向かって話しかける。
「戦いは終わった。これ以上の犠牲は双方共に望んでいないだろう。お前たちの思い通りには行かなかったかもしれないがそれでも戦いは終わったのだ」
「レイラ様は……」
「命に別状はない」
教団の連中から安堵の声が上がった。
「だが、星帝様は……」
「それは諦めてもらうほかない。しかし心配はするな、ここにいる勇者ゼロが勇気と知恵をもって問題を解決してくれるだろう」
「おいセシリア、勝手なことを……」
俺が困り顔でセシリアの暴走を止めようとした時だ。
「ん……んん……」
「ルシル! 大丈夫か!」
うめき声とは違う吐息と共に漏れる声。
「ん……」
俺はルシルの身体をゆっくりと起こす。
「あ……」
ルシルが目をうっすらと開けて俺を見る。
「なるほど。これが大地に根付きし者の家か……」
俺の背筋に冷たい物が走った。
「ルシル、お前……!」
ルシル以外の者は微動だにしない。
ルシルが亀のような速度で立ち上がる。手や足を動かし、辺りを見回す。
ゆっくりとした動きだが、今この場に居合わせている者の中で唯一動いていた。
「なるほどよい素体であるな」
ルシルとは思えない地の底から響くような低音がルシルの小さな唇から漏れ出る。
「いかがしたか、大地に根付きし者よ」
「ルシル! おいルシル、しっかりしろ!」
降臨の儀式がここにきて成功しているとでもいうのか。
俺はルシルの身体を強く揺さぶる。
「余もまだ馴染みがないこの身体、そう動かすでない!」
ルシルの身体から電撃のような物がほとばしり俺の手を無理矢理に引き剥がす。
俺は手を押さえながらルシルの様子をうかがう。
「はっ……よもや……」
バーガルの声がうわずっている。
「星帝様が、降臨なされた!」
バーガルと教団の連中に驚愕と歓喜が伝播した。
ざわめき始める広間。
「星帝……だと」
俺のつぶやきは歓声の中に虚しく消えた。