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魅力の残滓

 凱王がいおう。前に戦った奴がそんな名前を言っていた。

 認められ力を与えられたとかどうとかいう話だった。


「魔王様が、レイラ様が討ち取られた!」

「ひいぃ、儀式は失敗だぁ!」


 魔族たちから諦めの言葉が出てくる。


「ええい、詠唱を続けんかぁ! 星帝せいてい様を降臨させるのだあ!」

「ですがバーガル王、レイラ様が!」

「だが、レイラ様が敗れたとて我らが星帝様を降臨させればその想いは達成させられる! レイラ様のご遺志をを貫くは我らの役目ぞ!」


 混乱をし始める魔族たちの中にいて司教や教団幹部を鼓舞するのは魔族の王バーガルだった。


「これが我らの矜恃きょうじ、魔王レイラ様のご遺志を成就じょうじゅさせる事こそ!」


 バーガルの声に教団の連中が呼応する。

 今まで逃げ腰だった者たちも星帝降臨のための詠唱をやり直し始めた。


「声が……一段と大きくなっていく……」


 セシリアの困惑した声が聞こえる。

 詠唱の大きさに呼応するかのようにルシルのうめき声も大きくなっていた。


「う……うあぁ!」

「ルシルちゃん! シルヴィアちゃん、カインちゃん……あぁっ、俺はどうしたらいいんだ!」


 円の聖櫃(サークルコフィン)が解ける。物理的に攻撃を行う者はもういないので構わないのだが、問題はこの詠唱とルシルだ。


「レイラは……意識が飛んだか」


 俺はぐったりと俺にもたれかかるレイラを左腕で支えると、レイラを貫通して柱に突き刺さった剣を引き抜く。

 レイラは意識が無いもののその動きと痛みに一瞬だけ身体を震わせる。


「Sランクスキル重篤治癒グレートヒーリング! 俺が使える最高ランクの回復スキルだ」


 俺はレイラに重篤治癒グレートヒーリングを発動させた。


「勇者ゼロ、なぜそいつに回復スキルを!」


 セシリアが俺の行動をとがめるが俺は気にせずレイラの治療を続ける。

 落ちていたレイラの両腕を拾い上げると寝かせたレイラの傷口と合わせた。


「もう一度、重篤治癒グレートヒーリング! この腕をつないで治せ!」


 俺は最大出力で魔力を放出して重篤治癒グレートヒーリングを発動させる。


「ここで死なせはしない」


 レイラの腕は斬り飛ばす前と同じとは言わないまでも、これで動かせる事くらいはできるようになるはずだ。


「勇者ゼロ、それよりも教団の奴らの詠唱を! ええいっ、こうなれば俺だけでも実力で詠唱を阻止……」


 俺はレイピアを構えるセシリアを制してバーガルたちに向かう。


「星帝降臨は行わん! これ以上の儀式は不要である!」


 俺が大音声で広間の者たちを震撼させる。

 一瞬だけ詠唱が留まった瞬間を見逃さず、俺は言葉をつなげた。


「魔王レイラは生きている、俺が死なせない! それに西の大陸、凱王については俺がどうにかする! よってこの儀式は不要だ!」


 俺が話をしている間も詠唱は続く。


「うあぁ!」


 ルシルが詠唱の抑揚に合わせて悲鳴を上げる。


「これ以上させはしない!」


 俺はレイラを担ぎ上げてルシルの隣に寝かせた。


「何をするの勇者ゼロ」


 打算とも悪辣あくらつとも思われようが構わない。レイラが死んでしまっては行えないと思ったからだ。


「俺の考えに間違いがなければ……」


 俺はレイラの頭から生えた角をルシルの額に押しつける。


「ルシル、聞こえるかルシル! お前の力を戻そう! 受け取れっ!」


 俺はレイラの頭に生えている角を押しつけながらルシルに話しかけた。


「行ってくれ!」


 俺の声と同時にルシルとレイアの身体が一瞬まばゆい光に包まれる。

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