魔王となる意味
俺はレイラの猛攻を剣で弾き飛ばし続ける。
「手数では義妹に分があるかもしれないな。だが俺も魔王討伐の勇者だ、相手が魔王であればそれを倒すが運命」
「義兄上、我を魔王と認めるか。それは重畳!」
魔力投鞭が俺の背後から襲ってくる。
俺は前転でそれを躱しレイラとの距離を詰めていく。
「認めざるを得んだろうよ、これだけの魔力と攻撃、それに魔族たちへ星帝を降臨させるという目的を与えた指導力!」
俺の進んだ先に魔力矢弾が飛んできた。
「読まれていた事は判っていた! だが魔力矢弾程度であれば!」
俺は魔力矢弾の直撃を食らいながらレイラへと突進する。
「突っ込んでくるとは!」
レイラは俺の突撃を躱そうと後ろへ跳ぶ。
俺はもう一歩踏み込んでその間合いを広げさせない。
「なっ!」
俺の払った剣が光の尾を引いてレイラを通過する。
「浅かったか」
レイラの突き出した両手が肘の前で切断されて宙を舞う。
「うがっ!」
そのまま俺は剣を構え直してレイラに体当たりを行い、俺とレイラは広間を支える豪華な柱にそのまま突っ込んだ。
柱にヒビが入りレイラの口からおびただしい血が吐き出される。
「まさか攻撃をものともしないとは……な」
俺の身体にはあちらこちらに岩の棘や魔力で焦げた痕があった。
「これくらいかすり傷だ。お前と違ってな、義妹よ」
俺が構えている剣はレイラの脇腹を串刺しにし、そのまま柱へと突き刺さっている。
レイラの下顎が震えて歯が鳴った。
「だ、だが……我がここで……倒れる訳にはいかぬのだ……義兄上を、いや勇者を倒してでも……!」
レイラは震える顎で俺の首筋に噛みつく。
力の入らない状態での最後の抵抗に、俺はそのまま身を任せていた。
「我は勝たねばならぬのだ。星帝の力を得、魔王として魔族を統べ、版図を拡大させなくてはならないのだ」
レイラは涙を流しながら何度も何度も俺の首に噛みつき、食い千切ろうとする。
だが既に無力な動きは攻撃というよりも無駄な動作でしかなかった。
「レイラ……」
俺は剣をそのままの状態でレイラを軽く抱きしめる。
「勇者よ、我はお前が憎い……。姉上が討たれてから我が魔族をまとめようとしたが、ベルゼルどもが結託しいつの間にやら魔族は仇である勇者に取り込まれる始末……」
「そこまでして権力を欲するか、レイラ」
「権力? そうだ、我は魔族を統べる者として力が欲しい、欲しかったのだ……。だから姉上から魔王としての能力を奪って我が物とした。その力でここの魔族を支配下に置いた。もう少し、あともう少しであったものを……」
レイラは俺の首に口を押しつけながら自分の欲望を吐き出していた。
「くっ、口惜しい……。星帝の力を得られれば、配下に加えることが叶えば……西の大陸からの脅威も跳ね返せたであろうに……」
悔しさに目を閉じると大粒の涙がこぼれ、俺の首筋を通って流れていく。
「西の大陸……だと。噂は聴いたことがあったが、まさか凱王……」
レイラはそのまま意識を失って俺にもたれかかった。