カインの恋はメタモルフォーゼ
俺に抱きついている猫耳娘とシルヴィアを交互に見る。
「いや、うん、ちょっと待て今整理するから」
カインはシルヴィアの弟だ。目の病気だかなにかで包帯や布で絶えず目隠しをしていた。目隠しをして目が見えないからほとんど荷馬車の中にいて荷物整理をしてくれている。
「俺たちが狩りに出た時は野営地にいたはずなんだ。それがなぜ猫族の獣人でしかもこの身体はどう見ても女の子。何より重要なのはこの毛足の長いもふもふだ!」
「そこかよ! ていうかこいつ、ゼ~ロ~か~ら~離れろ~!」
「にゃ~! 嫌にゃ~!」
ルシルが猫耳娘を俺から引き離そうとする。
「まあ二人とも落ち着け」
俺は右腕にルシル、左腕に猫耳娘を抱えておとなしくさせる。
「もう、ゼロ……」
「ふにゃぁ~」
「尊い……カインとルシルちゃんがあんなに……あぁ」
「ちょっとシルヴィアさん、おーい」
大丈夫かこの人。
「こほん、失礼しました。話すと長いことですが、カインは月を見ると猫娘に変身するのです!」
「え、変身? って説明それだけ?」
「はい」
「短っ!」
なぜとかどうしてとかいろいろ聴きたいことはあるが。
「このせいでカインは村を追われる事になり、以来私と各地を渡り歩く生活を続けているのです。人のいるところでは騒ぎにならないよう目隠しをして月を見ないようにしていたのですが、先程少し目を離した隙に取ってしまったのでしょう」
「ボクお腹が空いちゃって。ごめんなさいお姉ちゃん」
カインはしょんぼりして耳が垂れる。
「この娘がカインなのか……。目隠しを取った顔は初めて見たけど、かわいいじゃないか……あいたたた!」
ルシルに背中を思いっきりつねられた。
「それにしてもじゃあこの鹿は」
カインが噛みついていた鹿だ。俺とルシルで追っていた獲物。
「うん、ボクが捕まえたのにゃ!」
嬉々として答える。
俺は二人を離して鹿の所へ行く。
「首が折れている……。本当に仕留めたみたいだな」
カインが両手を胸の前で合わせてもじもじしている。
「すごいなカイン、お手柄だよ。これで肉には困らないで済むな」
カインの顔が晴れやかになった。
「ゼロさん、いいのですか……」
「何がだシルヴィア」
カインがシルヴィアの所に行って腕に抱きつく。
心配そうに俺の方を見ている。
「カインはこのような姿ですし、怖いとか気味が悪いとか……」
「そんなこと気にしないさ。俺だっていろいろな奴と旅をしてきた。熊族の獣人とも仲間になった事もあったし変身能力くらいは当たり前だ。まあ流石に性別が変わるのは初めてだけどそれも個性だろ、問題無いさ」
それを聴いてシルヴィアがカインを抱きしめる。
その目には光るものがあった。
「今まで誰も認めてくれなくて……変身しないように目隠しをして、人からは隠れるようにして生きてきましたのに」
「お姉ちゃん……」
俺はカインの頭に手を当ててそのもふもふをなでる。
「誰にだって秘密はあるし隠したいことだってある。だからって俺は嫌いになったり排除したりはないさ。それに打ち明けてくれてよかったと俺は思っている」
もふもふする度にカインの耳が垂れていく。
「だってさ、今まで内緒にしていたことを話してくれたんだ。信じてもらえて俺は嬉しいんだよ。ありがとう」
シルヴィアの目から涙がこぼれる。
「お姉ちゃん大丈夫? どこか痛いのかにゃ?」
「ううん、お姉ちゃんは大丈夫よカイン。もう我慢しなくていいの。ゼロさんたちとなら好きな物を見てもいいのよ」
「そっか! ボク嬉しいにゃ!」
「カインくん、えっと今はカインちゃんかな。改めまして、私がルシルだよ。これからは気にしないで一緒にいろんな物を見ようね、いろんな事をしようね」
ルシルがカインを抱きしめる。カインの腕がそっとルシルを抱きしめ返す。
「尊い……カイン、ルシルちゃん……あぁ……尊い……」
「シルヴィア……。感動の場面が台無しだよ、まったく」
口ではそう言いながら、俺は自然と笑顔になっていた自分に気付いた。