姉だった器
神殿の中の広間、そこは強者と戦意を失った者とで占められていた。
「よし、まずはここから無事に帰る事を……」
「困るなぁ、それでは星帝を降ろすことができないだろう!」
いきなり岩石でできた棘が俺を襲う。
「岩の槍だと!」
この声、そしてこのスキル。
「義妹よ。よもやこのような場で相まみえようとはな」
「なあ勇者、いや義兄上と言った方がいいかな? 姉上の身体は我にとっても非常に重要な役割を持つのだよ。今更邪魔をしないで欲しいね!」
捕らえられていた女の子たちを解放したセシリアが俺の後ろに戻ってくる。
「なんだね勇者ゼロ、この小娘は」
「ルシルが魔王だった頃の妹、レイラだ」
「妹……」
俺は抱きかかえているルシルを見る。
まだ意識は戻らない。戻らないというよりは何かで意識が戻ることを防がれているようにも思えた。
「まあそれも今となっては微妙なところなんだけどね。我は魔王ルシルの妹ではあるからそこの複製人間とは姉妹かどうかと言われるとねえ。ただ、器の中に入っている魂とは姉妹のつながりがまだ息づいていると思うんだが」
レイラが右手を横に払うと、近くにいた捕らわれていた女の子が数人倒れた。
見れば胸に岩の棘を生やしている。
「なんて事をするんだ!」
岩の槍を女の子たちに突き刺したのだ。無詠唱で手の挙動だけで発動させて。
「そういきり立ちなさんな義兄上。元々あの生け贄は魔力供給源として集めた物だ。汚れのない純粋な魔力を生成するには生娘が一番効率よいのでな」
「き、貴っ様……!」
俺は自然とレイラの射線をさえぎるように立つ。
その意を感じてかセシリアとカインは女の子たちを俺の後ろへまとめるようにして移動させる。
だがそれを取り囲むように教団の幹部や信者たちが集まってきた。
「教団の者たちが勢いを盛り返してきたか。バーガルもいるのか……。これは形勢逆転とでも思われたりしているのかもしれないな」
確かにこれはあまりいい戦況とは思えない。
「セシリア済まない、ルシルを頼む」
「任された。俺がルシルちゃんの身の安全を保証しよう」
言葉だけでもそう言ってくれる事が嬉しい。
俺はセシリアにルシルを預けると、レイラに向けて剣を抜き払う。
「レイラ、お前を倒せばこのまた戦況も一変するだろうからな、覚悟してもらおうか」
「覚悟するのはそちらの方だ。姉上を返してもらおう! 姉上は星帝の依り代とするのだからな、器となってもらわねばならない!」
「器というが、そうしたらルシルの魂はどうなる!」
レイラの目に冷たい光が宿る。
「そう、だからその複製人間は姉上ではなくなるのだよ。姉上は既に魔王としての役目を終えられたところで存在価値もなくなったという事さ! 故に器を器として正しく扱ってやろうと言うのだよ!」
レイラが右手を突き出す。
俺の目の前で棘立った岩が生成された。