儀式を中断させての救出劇
隠し部屋から壁を破壊して広間に飛び出した俺は、広間の天井近くから落下を始める。
「なんだっ!」
「天井から……いや壁から出てきたぞ!」
「曲者だっ!」
司祭たちが慌てふためく。広間の大部分を占める信者たちはどうすればいいか判らないまま落ちてくる瓦礫の下敷きになる者や悲鳴を上げながらその場にうずくまる者など混乱している様子だった。
「SSランクスキル発動ぅ! 旋回横連斬っ!」
俺は回転する剣圧で少しでも落下の衝撃を受け流すようにする。
剣による受け身のようなものだ。
丁度落下したところで濡れた魔族のケンタロウがいたようだが、巻き込んだとしても気にしない。囚われの少女たちでもないからな。
「ゼロ様にゃ!」
「カイン、大丈夫か!」
偶然近くにいた猫耳娘のカインが俺に抱きつく。
手錠と足かせを剣で断ち切るとより一層しがみついてくる。
「怖かったにゃゼロ様ぁ!」
「シルヴィアは!? 他の女の子たちはまったく反応がないぞ!」
ルシルは祭壇で寝かされているから自由に動けないというのも判るが、シルヴィアたちもうつろな目をしてこの騒ぎの中でも反応なく立ち尽くしてる。
「カインだけ意識があるのか」
「ボクもお姉ちゃんと同じようにぼーっとしたふりをしていたにゃ、変なご飯を食べた時からみんなおかしくなっちゃったのにゃ……」
猫族の獣人の体質なのか動く死体に噛まれて得た耐性なのか、俺の完全毒耐性に似た効果があったのかもしれない。
「そうかその判断は正しかったな、怖かっただろう」
「う、うん……。でも我慢したにゃ……」
俺はシルヴィアを縛っていた物を破壊する。
「カイン、シルヴィアを頼む!」
「うん!」
俺は天井近くの壁に空いた穴に向かって叫ぶ。
「セシリア、来いっ!」
一瞬の静寂。
「行くぞっ!」
その声が聞こえた頃にはセシリアが壁の穴から飛び出していた。
落下するに従って徐々にセシリアの姿が近付いてくる。
「任せ……ろぉっ!」
俺は両腕を開いてセシリアの落下地点で構えた。
「勇者補正Sランク、スキル超加速走駆発動っ!」
俺は跳び上がって空中でセシリアを横抱き、いわゆるお姫様抱っこで捕まえる。
俺が跳んだ勢いとセシリアの落下する速度が相殺され、そのまま着地した時に床のタイルが広範囲にひび割れてへこんだ。
「ありがとう……。お、重たくなかったか?」
「馬鹿を言え。これくらいどうということはない。それよりもよく俺を信じて飛び降りてくれた」
「それは……当然のことだぞ、婿殿……」
俺は一つ咳払いをしてセシリアを立たせる。
「女の子たちを頼めるか」
「ああもちろんだ。拘束を解くところは任せろ!」
セシリアは腰のレイピアを抜いた。
手錠や足かせの接合部分をうまく狙って部位だけを破壊して囚われの少女たちを自由にする。
「ルシル!」
俺は周りの女の子たちはセシリアとカインに任せて祭壇へ駆け上がろうとした。
「勝手なことをしてくれたのう、人間の小僧めっ!」
俺の前に立ちはだかったのは魔族の王、バーガル。
「ケケケッ、バーガル王よ、ここはこのケンタロウ様にお任せを」
さらに王の前に移動してきた水たまりが盛り上がって人間の形になって立ち上がる。
「今斬り払ったはずが……水を操るどころか自らを液体にできるという体質……能力か」
ルシルの寝かされている祭壇の前には他にも司祭たちが群がってきた。
「時間をかけすぎたか……」