星なる乙女の儀
ルシルが祭壇の上に寝かされる。意識があるのかないのか自発的に動く気配がない。
「くそっ、奴らルシルをどうするつもりだ……」
俺は歯噛みをするが当然ながら状況は好転しない。
「勇者ゼロ、奥から誰か出てきたぞ」
セシリアが教えてくれた方向を見る。
広間の入り口とはまた別の扉から着飾った壮年の男が現れた。
「教団の者たちが平伏しているぞ。何か言っているな……」
俺は聞き耳を立てる。思念伝達のスキルは使えないが耳はいい方だ。
「……ふむ、なにっ! あの男が王だと……バーガル王、と聞こえたぞ!」
「俺には聞こえないが勇者ゼロ、バーガルと言えば魔族の王、魔王という話ではないか」
「ああ、その親衛隊という奴は俺が三人倒しているが、残る一人が水を操る魔族ケンタロウという奴らしい」
「そしてその親玉がバーガル王という訳か」
「恐らくバーガルの隣にいる男がケンタロウだろう。衣服が濡れているというだけの理由だがな」
俺が見たところ広間に集っている司祭や信徒たちとは異質な見た目をしているのが王冠を被っているバーガルと、その隣に濡れたローブをまとっている親衛隊の生き残りであるケンタロウだと思われる。
「手錠でつながっている女の子たちも解放してやらなくては……」
高位の司祭だろう、紋章の入っている帽子を被っている司祭が何やら呪文のようなものを唱え始めた。
囚われの少女たちが淡く光り始める。
「始まってしまったか……!」
抑揚を付けた司祭の声が広間に響き渡る。その声の高低に合わせて淡い光の強さが変わっていく。
「どうする!」
セシリアが俺の腕をつかんで揺さぶる。
みるみるうちにルシルへ魔力が集中していくように光が集まってきた。
「どうもこうもあるか! こうなれば強行突破だ!」
「待て! 壁を突き破る気か!」
「もとよりそのつもりだ!」
「だが高さが、広間までは建物の三階か、いや五階くらいの高さがあるぞ! それではお前も無事には済むまい!」
「いや……」
俺は一息飲んで気合いを入れる。
「勇者補正を侮るなよ。SSSランクスキル重爆斬っ! この壁を突き破れっ!」
俺はスキルを発動させて壁に突進した。
窓枠ごと破壊して広間の天井付近から飛び出す算段だ。
「おいっ、待て!」
セシリアが制止するも俺は止まらない。
それに壁が破壊されたとなればその音と落ちる瓦礫で下の連中は儀式どころではないだろう。
「いっけぇ!」
俺の抜き払った剣が壁に振れると同時に大爆発と共に大きな穴が空く。
俺の身体よりもかなり大きな穴に飛び込む。
突然の大爆発に広間の連中がこちらを一斉に見上げる。
「ルシル、待っていろよ! 今助けてやるぞ!」
俺は落下しながらも声を大にして宣言した。