明るい家庭計画
門番の控え室から神殿の中に入った。
「セシリア、監視区域から中が確認できるということだったが」
「うん、門番はそう言っていたからな。だが内部に入ってしまえば後は手当たり次第怪しいところを探るのみだ」
俺とセシリアは神殿の中で捕虜のいそうなところを考える。
「大切に扱われているのであれば上層か。だが、ただの捕虜扱いでは地下ということも考えられる」
「勇者ゼロ、おあつらえ向きに階段があるぞ。上にも下にも行けるようだが」
「そうだな、まずは上層階を探そう。儀式をするような部屋があるかもしれない。星を崇めるのであれば重要な場所は上の方にありそうだ」
そう告げると俺は階段を上っていく。
「まずは行ってみてからだな」
セシリアも後についてきてくれた。
「なあ勇者ゼロ」
長い螺旋階段を上っていく。
その途中でセシリアが俺に話しかけた。
「なんだ?」
「子供は何人欲しい?」
「ぶふっ!」
いきなりのことで咳き込んでしまう。
「な、何を突然!」
「別におかしいこともあるまい。モンデール家の、伯爵令嬢としてのこれは責務だ。きっかけはともかくお前を婿にする決まりに従ってだな、跡継ぎを残さなくてはならないのだぞ」
「いやそれはお前のところの勝手な決め事であってだな、俺がそれに従う義理はなくてだな……」
俺が慌ててこの場を治めようとすると、セシリアは普段みせないような切ない表情になる。
「勇者ゼロ、そんなに俺のことが嫌いか……?」
潤んだ目で俺を見つめるセシリア。
「き、嫌いだったらこうして共に行動していたりはしないだろう、うん」
「だったら……」
セシリアが俺の腕をつかんで引っ張る。
勢いで階段を踏み外した俺はそのままセシリアの胸の中に収まった。
「もがっ!」
俺の立っていたところに光の筋が刺さり、壁に穴を開ける。
「ふんっ、侵入者がいると聞いて探していたら、見つけちゃったみたいだわねぇ!」
螺旋階段の石壁が動いて中から魔族が現れた。
筋骨隆々で身体中に棘のついた鎧を着ている。
「隠し扉か!」
俺はようやく体勢を整え直すと、石壁の中から現れた魔族に向かって構えた。
「こんなところに人間がいるなんてのは聞いていないだわねぇ、門番でも見回り役でもないから、あんたらは侵入者確定なのだわね!」
「ま、待て! 俺は戦うつもりも殺すつもりもない。さらわれた女の子たちがどこにいるかを知りたいだけなんだ!」
俺は剣を抜かずに両手を前に出して相手に攻撃する意思がない事を示した。
「女の子ぉ? ああ、儀式で使う器の巫女と餌たちの事だわね? そんなどこに捕らえているかなんて教える訳ないだわね!」
「ほう、なら上層階の儀式の間に器の巫女がいるというのは間違いだったか」
「なっ! そんなわけないだわね! 器の巫女は隠し部屋ですやすやお休み中だわね!」
「あれ? 隠し部屋って今お前が出ていたところの奥の部屋だよな?」
「なに言っているだわね、巫女のいる部屋はここの反対の隠し扉の中だわね!」
「そうか、ならそこには近付かないようにしよう」
「そうそう、それがいいだわ……」
俺は超加速走駆で瞬時に間合いを詰めると、筋肉だるまの脇腹に強烈な正拳を叩き付けた。
「……ね」
隠し扉から現れた魔族は泡を吹いて意識を失った。
「貴重な情報ありがとう」