星の降る教会
俺とセシリアは改めてドワーフの造った谷を見渡す。
星教徒の紋章は円の中に大地を模した地平があり、その上にいくつもの尾を引く星が降り注ぐデザインになっている。
「この紋章……。そうか!」
「何か見つけたか勇者ゼロ!?」
「ああ、落ち着いて考えればどうということもない話だ。恐らく星教徒は星、もしくは星から降り立った者を崇めていると見える」
「星ということは夜か? いや建物が昼と夜で異なるとは考えにくい……とすると高さ……」
「セシリア、多分それだ」
「え? 高さ? ああ」
気付いたセシリアは崖を見上げる。
「星に近いところへ神殿を建てて、教団の偉い奴らはそこにいて市民を支配しているのだろう」
セシリアの見る先には俺の推理通り荘厳な装飾が施された柱が何本も建っていて、表から見える屋根の中央にはあの紋章が掲げられていた。
「星教徒の紋章か……」
少し遠回りにはなるが、ここからも崖の側面に設置された通路と階段で行けそうだ。
「勇者ゼロ、道が狭いから悶着はなるべく避けたい。顔は見せないようにして俺が先に行く。俺の後をついてきてくれ」
「判った、セシリアの言う通りにしよう」
俺とセシリアは狭い通路を進んでいく。手すりはあるがそこから乗り出したら簡単に落ちてしまいそうだ。
谷の内側の崖だ、落ちたら無事では済まないだろう。
「こういう時に空を飛べるウィブがいてくれたらな……」
つい愚痴が漏れる。
「だがあの時はあの選択が最良だったと俺も思うぞ。勇者ゼロの判断は間違っていない」
「そうだろうか……」
「そうだとも。あのワイバーンがいてくれたからマルガリータ王国の国王と話ができるのだろう? そうでなければオークたちはただの襲撃者と思われているかもしれない。だが結果を知っている訳ではないからな、彼らに任せるしかないのだが」
「ああ、そうだな。詮無いことを言った」
「いいさ、俺にだったら弱音くらい吐いていいんだぞ。それでお前が楽になるのであればな」
「セシリア、どうもお前に助けられっぱなしだな」
「そうか? いや、そうだな。それなら今度改めて請求するから覚悟しておくのだな」
「はははっ、お手柔らかに頼むよ」
「さあてどうかな~?」
セシリアは楽しそうな笑みを浮かべて俺をからかう。
前方から信者らしき外套をまとった一団がやってくる。
「星の導きのままに」
一団の先頭がそう告げると、後ろの連中も同様に話しかけてきた。
「星の導きのままに」
セシリアが同じように返事をし、手を目の前で組んで掲げる。
セシリアは肘で俺をつつき注意を促す。
「なるほど……」
俺も見よう見まねで同じ動作をした。
「星の導きのままに」
一団が過ぎ去り通路には俺とセシリアだけになる。
「よく判ったな」
「臨機応変は商人の要だよ。すぐさま対応できなければ何も知らないとばかりに買いたたかれるからね」
「機転の速さは流石と言ったところか」
「まあそう褒めるなよ、照れるじゃないか」
「そんな事はない、助かったよ」
「ふふっ」
男装をするような男勝りなセシリアだが、今だけは少女のような笑顔を見せた。