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谷底にある魔族の町

 俺ははしごの脇で腰を下ろしている。

 長い縦穴をセシリアが降りてきた。急いでいるようだったがそれでも安全に確実に、一段一段降りてきている。


「待たせたな勇者ゼロ。入り口は内側から鍵をかけておいたから、上から他の奴が降りてくる……うわっ、どうしたそれは!」


 はしごを降りきったセシリアは俺の周りに転がる死体を見て驚く。


「これな。お前を待っている間にここへ寄ってきた魔族たちだ。俺に剣を向けてきたから返り討ちにしたまでだが……俺の方が侵入者だからな、相手にとっては不幸な出来事だったかもしれないが」

「不幸って、そういう規模じゃないだろうこれは。彼らにとっての厄災だな……」


 確かにセシリアが言う通りだ。十人から先は数えるのをやめたが、どれだけ倒したのかよく判らない。


「だが倒した奴からも少し情報を得られたからな。この先……」


 俺は通路となっている洞窟の先を指さす。


「ここは上層への移動に使う通路で、この先には魔族の棲む町があるという事だった」

「そうなんだ。女の子たちを集めているとしたら町にいるか神殿みたいな宗教的な施設かもしれないな」

「魔族の神殿というのも奇妙な気はするが、邪神や魔人ならそれもありか」

「さぁ? 俺はそういうの詳しくないからな」

「とにかく町に潜入して情報を集めようと思う。そこでだ」


 俺は倒した魔族から剥ぎ取った外套をセシリアに渡す。


「ひとまずこれで顔を隠して町に行こう。人間ということがバレたら面倒になりそうだからな」

「確かに」


 セシリアは外套の臭いに顔をしかめるがそれを我慢して頭から被る。


「行こう」

「ああ」


 俺たちは通路となっている道を進む。

 多くの魔族を倒しているのだからもう少し警戒されるものかと思ったが、特に魔族の者とすれ違うこともなく通路を進んでいった。


「どうやら外の明かりが見えてきたようだな」


 通路の先にある光が徐々に大きくなっていく。

 眩しさが薄れていくとその光の先にある風景が見えるようになってきた。


「魔族の、町……」


 セシリアが驚きの声を上げる。

 それも無理のない事だろう。俺も目の前の光景に驚きを禁じ得ない。


「町というより国だな。崖に建物が張り付いているようにも見えるが」


 崖、確かに崖だった。

 その崖に横穴を開けて家にしているが、その家の装飾には目を見張るものがある。羽の生えた生き物や物語の一節を形にした物など、目に見える範囲で彫刻の入っていない物はないようだ。

 さらには家と家は階段や通路でつながっていて、それもまた彫刻の様式にも見えた。

 この谷全体が芸術品のようにも思える。


「町全体が荘厳な彫刻でできているかのようだ……」

「勇者ゼロ、昔遠方の国で聞いた噂には見事な彫刻を施した町があるというものがあったが、まさかここの事ではないかな」

「ほう」

「失われた古代技術の粋を極めたドワーフの町、グランディア」

「主のいなくなったその遺跡に魔族が棲み着いたという事か」

「ああ。そうに違いない。これだけの仕事をただの魔族ができるとも思えん」


 ドワーフか。今の技術では到底考えられないような、失われた古代の作品の中に俺たちはたたずんでいた。

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