侵入者
俺は匍匐前進をしながら小山に近付く。
「どうやらあの盛り上がったところが魔族が使う出入り口のようだな」
俺は伏せながらセシリアに話しかける。
「だがどうして伏せたりするんだ? 俺たちなら、いやお前だけでも敵を恐れる事はないだろうに」
「単純な戦力としてであればそうだろう。だが魔族と関わりのない奴、要するに部外者が門の近くをうろついていたら警戒するだろうし、下手をすれば入り口を潰されかねん」
「確かにそれはそうだな。警報でも鳴らされて警戒されても面倒だ」
セシリアは俺の懸念している事に理解を示してくれた。
「だったらどうしたらいいんだ勇者ゼロ。このままうつ伏せになって指をくわえて待っているというのか」
「奴らの出入りが終わったらその隙を見て侵入を試みる」
俺は小山を離れていった蜥蜴人間とオークに注意する。
奴らが気付かない距離になるまで待機し、振り向いても判らないくらいに距離ができてから小山のそばへ張り付いた。
「勇者スキルには隠密行動に特化したものは無いのか?」
小山の入り口に張り付きながらセシリアが話しかける。
「生憎と持っていないのだよ。勇者はどうも正面から人の家に立ち入っても不法侵入とかで騒がれたりしないからな。まあ、勇者として認められている国内での話ではあるがな」
「やっぱりそうなのか、勇者はどうしても目立つからなあ。隠れることに関しては不得手らしい」
「だからこうして伏せたまま移動したりもするんだがね」
俺は立ち上がりながら身体に付いた埃を払う。
「して、この入り口をどうしようかね」
先程見た感じでは垂れ幕のようになっているようだったが。
「入り口らしきところは……あった、ここか」
思った通りだ。俺は慎重に垂れ幕をめくってみる。
監視をしているような奴はいない。そしてその奥には下に続く縦穴とそれに備え付けられているはしごがあった。
「馬車が通るようなものではないが人は行き来できるようだな。よし、ここを降りてみよう」
「勇者ゼロが力尽くで強行突破していたら、こんなちゃちなはしごなんか簡単に埋まってしまっただろうな」
俺はセシリアの言葉に肩をすくめて返すしかなかった。
「俺が先に入る。続いて降りてきてくれ」
セシリアにそう伝えて俺がはしごに手をかける。
「慎重にな」
「もちろんだ」
そうは言ったが、俺ははしごの手すり部分に手を添えてはしごに足をかけずに滑り降りていった。
「言ったそばから……!」
遠く上の方でセシリアが何か言っているようだったが、俺は聞こえないふりをしてそのままはしごを滑り降りていく。
手すりが俺の手で擦れることで熱を帯びて赤くなる。
滑り降りながら足の裏にかかる空気の圧力が変わって行くのを感じた俺は、地面が近いことを察した。
「よっ」
手で触れていた手すりを一気に握り混むとその摩擦で降りる速度が落ちていく。
地面に足が触れる直前で俺の身体は停止した。
最後の一段をゆっくりと降りる。
「ふむ、周りは特に誰もいない……か」
俺は着地点の安全を確保しつつセシリアの事を待っていた。