別行動で北と南へ
オークの巣穴から出ると、もう辺りは夜の帳が下りていた。木々の隙間から見える星がまぶしい。
「おういウィブ! いたら来てくれ!」
静まりかえる夜の中、大声が響く。
「そうがならんでも聞こえとるからのう」
大きな羽音を立ててウィブが降りてくる。
捕まっていた女の子たちは暗い中目の前に降り立つワイバーンの姿を見て驚いていた。
中には腰が抜けて座り込む子もいたくらいだ。
混乱したのはそれだけではない。カシノは巣穴から出る時に平和主義的なカシノの考えに賛同するオークたちを連れてきていたのだが、オークたちもワイバーンを見て恐怖に震えていた。
「最近はこういう反応にも慣れたのう」
「毎回済まんな」
「勇者ゼロ、こんな暗がりでワイバーンが降りてきたら知らない奴は気を失いかねんぞ」
「勇者よ、案外楽しんでおるだろう」
セシリアもウィブも一応俺に釘を刺してくれる。
「ハハハッ、バレたか。悪かったよウィブ。皆も済まんな、事前にワイバーンだと伝えておけばよかった」
驚いたり魂消たりした女の子たちやオークたちも、ワイバーンが敵ではないことを理解したのか少しは落ち着きを取り戻したようだった。
「ウィブ、少し相談があるのだが」
そう言って俺はウィブに今までのいきさつを話す。
「俺は瘴気の谷へこのまま向かいたい。そこでだウィブお前に頼みがあってな、この女の子とオークたちを連れて行って欲しいんだ」
「ほう、どこへだね? これだけの人数、儂の背には乗らんからのう」
「それは重々承知。低空で女の子たちの護衛を務めてくれると助かる。それに目的としてはララバイたちと面識のある者がいると話が早いと思ってな」
「なるほど、確かにマルガリータの国王を知っているのは儂と勇者くらいだからのう」
「俺が戻れたらいいんだが」
「嬢ちゃんの事があるからな。流石に瘴気の谷へ儂だけで行っても何もできん」
俺とウィブが話をしているところへセシリアが割り込んでくる。
「ちょっと勇者ゼロ、お前マルガリータ王と面識があるのか? 俺もこの辺りを治めている国がマルガリータだという事くらいしか知らないが、まさか勇者ゼロがそこまで顔の広い奴だとは思わなかった……」
「それも偶然が重なっての事だったが。だが今の国王ならばオークでも受け入れてくれると思うがね」
「今の? 話じゃ国王は高齢ながら周辺諸国には軍事的な圧力で強攻策を執っているという噂だったが……」
「今は新しく若い王が国を治めている。近くの妖魔とも友好関係を築こうとしている奴だ、敵対しなければ大丈夫だ。それに俺の大使としてウィブが行ってくれるのであれば間違いはないだろう。どうだセシリア、お前もマルガリータに行ってみるか?」
「ううん、俺は勇者ゼロと共にシルヴィアとカインを助けに行く。マルガリータはまた次の機会にだ」
セシリアの即答で人員配置はできた。
「判った。セシリアは俺についてきてくれ。瘴気の谷へ行きルシル、シルヴィア、カインを助けに行く。ウィブはこの女の子とオークの護衛でマルガリータへ向かってくれ。カシノ、オークたちと彼女らの事を任せたぞ」
「承知した勇者よ」
「いいわ、任せなさい!」
俺たちは二手に分かれて道を進む。俺たちは北へウィブたちは南へ。
ふと空を見上げると東の方が明るくなり始めていた。