捕虜の行方
オークどもは俺のスキルに度肝を抜かれていて、もはや歯向かう意思は無いように見えた。
「だが逃がしはしないぞ。商人の女と猫耳娘をどうしたかそれを言えば解放してやるが、誰か話せる奴はいるか?」
俺は極力ゆっくりとオークでも理解できるように話しかける。
「カシノと言ったか。お前は知らないか、商人と猫耳だ」
「あたしゃ捕虜についてあまり詳しくは見ていなかったから……」
ハーフオークの少女カシノは自分が役に立てない事に対して肩を落としていた。
「お、おで、多分知ってる……」
オークの中から一人だけ、おどおどしながらも話をしようとしている奴が出てくる。
「商人だったメス、前の貢ぎ物、送った」
「前の? いつ、どこへだ」
「おでよく判んねえ。でもバーガル王の城に送る、荷車に乗せて」
バーガルがいるとすると北にあるという瘴気の谷か。
「お前たちは瘴気の谷にまで行くのか」
「おで知らねえ、運び屋はオークの戦士の役目だ」
「なるどほな、お前たちは戦士階級ではないと言うことか。道理で戦闘慣れしていないと思ったが」
「おで、言った、逃げていいか?」
オークはとにかくこの場から逃げ出したいという気持ちでいっぱいのようだ。
「いいのか勇者ゼロ、逃がしたらこの後面倒な事になりはしないだろうか」
「さてな、増援を呼ばれでもしたら確かに厄介ではあるが、とはいえ無駄に殺すこともあるまい。ただ問題はこの女の子たちだが……」
俺は後ろに集まっている女の子たちを見た。
五人の少女は互いに身を寄せ合って震えている。
目の前でオークの首が飛んだりもしているからな、怯えるのも無理はないが。
「一旦外へ出よう。ウィブにも伝えたいことがある」
俺はワイバーンのウィブと連絡を取る手段がない。声の届くところで話しかけなくてはならないのだ。
「よかろう、そうするとこのカシノちゃんはどうするかね」
そうだ。このハーフオークは前族長の娘らしいが、カシノに賛同する奴がどれだけいるか。
「カシノ、お前の考えと同じオークはどれくらいいるんだ。この巣穴を守れるくらいはいるのか?」
「それは難しいな。あたしゃらはそんなに多くない。そりゃあ影で応援しようとしてくれる者たちはいるだろうけど、表立って今の族長に歯向かおうなんて奴は少ないよ。いくら戦士たちが出払っているからって、今のあたしゃらの数じゃあ巣穴どころか自分の部屋も守れないよ」
「そうか……。そうだとするとお前たちも一度身を退いた方がよさそうだな。仲間たちがいたら声をかけてやってくれ。一度巣穴から逃げると」
「逃げる?」
「ああ、オークたちがどれくらいの数になるかは判らんが、一旦マルガリータ王国に身を寄せてみてはどうかと思ってな」
「人間の国だろう? それではあたしゃらを受け入れてはくれないんじゃ……」
「心配はいらないさ、それもあってウィブを呼ぶんだ」
「ウィブ?」
「外に出たら紹介するさ」
俺は来た道を戻り始める。気が付けば通路をふさいでいたオークどもは逃げ去っていた。
俺たちはオークの反撃に気を配りながら通路を進んでいく。