反抗の兆し
俺はオークの巣穴に捕らえられていた女の子たちをかばいながら廊下に出る。
「おいおいおい、なんだか人間くさいぞ、それも胸くそ悪い男の臭いだブヒ!」
「やいやいやい、こんな所で人間のオスがいるなんておかしいブヒー!」
廊下をやってきたのは両手で数えられるくらいのオークの集団。
「おいおいおい、なんでカシノが人間と一緒にいるんだブヒ!? まさかおめー、人間に捕まったりしたんじゃないだろうなあブヒブヒ!」
オークの一人がいやらしい笑いで近付いてくる。
「やいやいやい、カシノの奴牢の鍵を持っていやがるブヒ! てめーがこいつらを逃がしたんじゃねーだろーなフゴッ!」
鼻を鳴らしながらオークが威圧的な態度を取ってきた。
カシノと呼ばれたハーフオークの少女は俺の後ろで小さくなっているかと思ったが、何を思ったのかオークたちの前に出て行った。
「あんたらがこんな卑怯な事をやっから、あたしゃらが攻められてんじゃないのさ! バーガルなんかの言うなりになるから!」
「んだとー! バーガル王を侮辱すっと殺されんぞこのハンパ者がーフゴフゴ!」
「うっさい! なにが王だ! それまで貧しくても平和に暮らしてきたあたしゃらだったのに、なんだい今は!」
「バーガル王のおかげでこうしてウマい物食えていい物着られんだろーがフゴッ!」
「それがなんだい! そんな事言ってあたしゃらの数がどれだけ減ったんだい! 何人死んだと思ってんだい!」
カシノの剣幕にオークが指を使って数えようとしている。
「そういやああいつも死んだブヒ」
「あの向かいの穴に住んでいた一家もいなくなったブヒよ」
「いっぱい?」
「いっぱいブヒ……」
オークはカシノに向き直って自慢気な顔で答えた。
「いっぱい死んでいるブヒ。でも俺らは死んでないから大丈夫だブヒ!」
カシノはあきれた感じで頭を抱える。
「バーガルはあたしゃらの事をオークとか家族とかそんな風に思っちゃくれてないんだ。都合のいい駒、それも死んでもどうって事のない捨て駒程度にしか思ってないんだよ!」
「ブヒー、難しいことは判んねえブヒよ。でもバーガル王がやれっていうから人間のメスを連れていくブヒ」
「逆らったら殺されるブヒ!」
俺はオークどものブヒ問答に嫌気が差してきた。
一歩前に出ると剣先をオークの集団に向ける。
「おいお前ら、商人の女と猫耳娘をどこに隠した? 言わないとバーガルがお前らに罰を下す前に、俺がお前らの考え無しの頭をこれ以上考える事ができないように斬り落としてやってもいいんだぞ」
俺がにらみを利かせると、オークどもはたじろいで後ずさりした。
「い、今はいないブヒ」
「前はいたような口ぶりだな」
「そ、それは……」
「なんなら見せしめに何個かその頭を吹き飛ばしてやってもいいんだが」
俺はすり足で距離を詰めるとその分だけオークが退く。
だが数人が横へ広がり俺たちを半包囲しようとする。
「無駄だ、この狭い通路では俺の後ろへ回ることはできんぞ」
背後を取られては捕虜になっていた女の子たちが危険にさらされるから、それだけは避けなくてはならない。
俺は剣を横に振って牽制する。
「お、おいおいおい、な、な、何をビビってんだおめーら、剣を持ってんのはあいつ……と一番後ろのメスだけだ、おめーらが一斉にかかりゃあなんとでもなブッ」
「やかましい」
俺が振るった剣が真空波を生んでがなり散らしているオークの首を斬り飛ばした。
「Sランクスキル剣撃波だ。これを受けたい奴は他にもいるか?」