開いた扉
俺とセシリアはオークの巣穴の奥にあった下へ向かう坂道を下っていた。
「かなり臭いがきつくなってきたな」
汚臭、一言で表現すればそうなる。
生物の臭い、汚物のすえた臭い、物の腐った臭い。他にも様々な異臭が混じり合って、鼻で息をする事が苦痛になるくらいの臭いが続く。
「勇者ゼロ、あれを見て」
セシリアが示す方向に鉄格子が見えた。
「これって……」
俺が奥をのぞき込むと、そこには白骨化した生き物が横たわっていた。
大型犬のような骨格や小さめの人間の骨などが散乱している。
「動物も捕らえられていたという事だろうか。それとも……」
俺は不幸な考えを途中でやめた。
希望はある。
「奥にも鉄格子があるな」
俺は手元の明かりを頼りに様子をうかがう。
「オークは赤外線暗視を持っているから暗闇でも困らないのだろうけどな、俺たち人間はそんな機能を持っていないからこうして明かりが必要な訳だが、片手が塞がるというのも不便だ」
「俺がたいまつを持とうか? 前衛の手が使えないのは戦力的にも好ましくないだろう」
「セシリア、そう言ってくれるのはありがたいが戦闘なら大丈夫だ。後方の警戒を続けてくれたら助かる」
「頼もしいな我が婿殿は!」
セシリアが俺の背中を何度も叩く。その度にたいまつの炎が揺れて影も揺れる。
「そう言えばこんな事を聞いたな」
セシリアが何かを思い出したようで、話を続けた。
「赤外線暗視は対象の熱量を把握するだけで、温度が変わらないと見分けがつかないらしいぞ」
「ああ、前にゴブリンから聞いた事があるな。熱源を形で見る事ができるとか。そうか、壁や家具なんていう物はそうそう周囲と熱が変わらないから、そこに物があるかどうかなんて判別できなかったりするのか」
「みたいだな。戦闘では相手の位置が判るものの、転がっている石に気づけないという事もあるらしい」
「なるほどな、それはそれで便利だったり不便だったりするのだな。まあ、暗がりで暮らす事に対しては生活の知恵なりで補完しているのだろうけど」
そうこうしているうちに奥にある鉄格子の部屋へとたどり着く。
衣擦れの音や押し殺した声、荒い呼吸音が聞こえる。
「それなりの数がいそうだが……お、扉が開いている」
警戒しながらも鉄格子の前に立つ。
唯一の出入り口である扉が開いていて、土を掘り固めた空間には何人もの人影が見える。
「おい大丈夫か」
「ひぃっ!」
俺の呼びかけに対して悲鳴が返ってきた。
奥の壁には人間の女の子が五人、その手前にオークが一人いる。
悲鳴はオークが発したものらしい。
「おいお前、何をしようとしている!」
俺が剣を構えたまま扉をくぐって部屋の中に入った。
「に、人間……!?」
あまり豚っぽくない顔のオークが振り向いて俺の事を見る。
「オーク……だよな?」
馬鹿か俺は、なんて質問だ。
だが戦闘態勢を整えた俺に対してオークの言葉は意外なものだった。