巣穴への潜入
「あの巣穴がオークの棲み家か」
俺とセシリアが逃げるオークを追跡して突き止めた巣穴は、ウサギの巣のように地面を掘って地下へと続いているようだった。
「ルシルちゃんが心配だ。急いでここに捕らわれている女の子たちを助けて瘴気の谷へと向かおう」
セシリアは自分の責任を感じて捕虜になっている少女たちを助けたいところだろう。
「瘴気の谷はこの先だ。行くついでだからな、早く済ませよう」
俺は剣を握りしめるとオークの巣穴に向かっていった。
セシリアの足音が俺に続く。
「気を抜くなよ」
「お前もだぞ勇者ゼロ」
俺たちは緊張を和らげるために軽口を叩きながら巣穴へ潜っていく。
オークが出入りするだけあってウサギの巣みたいな穴でも大きさはそれなりにある。
俺は巣穴に入って少ししてから左手にたいまつに火を点けた。周囲が少しだけだが明るくなる。
「巣穴の中は結構広いな。これだけの広さがあれば行動に制限はかからないだろう。まあ二人並んで剣を振る事は難しそうだが」
「それならば背中は任せろ勇者ゼロよ」
「信じているさ」
「期待には応えるさ。それにしても……」
通路を進みながらセシリアが話す。
「暗がりが怖いなんて意外だな」
セシリアが俺をからかうような口調で言う。
「べ、別に暗がりが怖いなんてな……」
「そうは言ってもさっきから左手に持っているたいまつの光が小刻みに揺れているが。それも歩く動きとは別に、な」
気が付かなかった。俺が震えていたなんて。
「暗いのが嫌いなんじゃない。ただ、もうそんな事はどうでもいいだろう! ほら前からオークが押し寄せてきたぞ!」
俺はセシリアの言葉をさえぎって前から来るオークどもに狙いを定める。
「おやぁ人間どもがおらたちの屋敷に忍び込んでいるブヒ!」
「これは不法侵入ってやつだブー、懲らしめてやるブー」
「そうブヒ、男はいらないから後ろにいる女……」
オークどもがブヒブヒ言っているところを俺の剣が一閃して無駄口を止めた。
「オークの巣穴で間違いないな。横道に気を配れ、女の子たちが捕らえられている場所を探すぞ」
「判った。勇者ゼロも気をつけるのだぞ」
「ああ、そうしよう」
通路を進んでいると右に左に扉が現れる。それを一つ一つ開けて中を確かめていく。当然オークがたくさんいる部屋に出くわす時もあるが、力尽くで無力化させた。
「下に向かう坂があるな」
通路の奥、右手に下へと続いている坂がある。
「捕虜を閉じ込めるとしたらやはり下層かな。どう思うセシリア」
「どうだろう、俺もこの巣穴を知っている訳ではないからな。だがオークの巣穴は下に行けば行く程汚物やごみが溜まっているという。捕まっている人たちは大切に扱われているとは思えないからな……」
「行ってみるか、巣穴の下層へ」
セシリアがうなずく。
なだらかに下っていく坂道を俺たちはたいまつの明かりを頼りに進んでいった。