新居探して森の中
新章突入で、これから拠点作りを開始です。
鬱蒼とした森の中、使われなくなって久しい街道を進む。平坦な地形でそれほど起伏がない分まだ救いだが。
「もう国境を過ぎてから三日は経っているか……。シルヴィア、もう一度確認するけどガレイの町というのはこの先でいいんだよな」
「はい、城塞都市ガレイはこのアボラ川の中域にある大きな砦の町です。ただ、交易として使う道からは大分離れていると思うので、あと何日かかるかは……」
「そうだよな。そろそろ日も傾いてくる頃だ、野営の準備をしようか」
「そうしようよゼロ、私疲れちゃった~」
俺は辺りを見回し野営するために適切な場所を探す。
シルヴィアは荷馬車を街道の脇へ停め馬に水を与える。
カインは包帯で目を隠したままだが、手探りで荷馬車の中から野営用の天幕を用意してルシルに渡す。
「あの丘の上はどうだろう。遺跡のような石柱が見える」
俺が指さした先は少し小高い丘になっていて、木は少ないが代わりに石柱が何本か建っていた。
「少し調べてみるから、皆はそこで待っていてくれ」
俺は念のため偵察に出る。
剣をいつでも抜けるようにして足音をなるべく立てないようにゆっくりと丘の上を目指す。
敵感知は発動していないので敵対的な対象はいないようだが、トラップなどは検知できないため慎重に越したことはない。
「どうやら問題はなさそうだが……。おお……」
丘の上に立って街道の方を見ると辺りの景色がよく判る。街道には俺たちが通ってきた荷馬車の轍がうっすらと見えた。
近くにはアボラ川が流れていて川幅も広い。この先街道からは離れていくがきっとそのさらに先にはガレイの町があるのだろう。
丘の上は草が生い茂っているものの石柱以上に高い木は生えておらず開けた土地になっていた。奥は森に続いている。
「結構遠くまで来たからな。近くに森も川もあってある程度平地もある。ガレイの町が近くだったりすれば多少は便利なのかな。シルヴィアは商人として当然やっていけるし俺たちもその護衛なら旅は続けられるのだろうけどな。それに旅の傭兵としてなら戦いもこなせるしどこかの国に仕えるのもいいかもしれないが……」
「なぁに深刻になっちゃってんのよ」
いつの間にやらルシルが俺の隣にいた。
「大丈夫そうだったから来ちゃった。さ、天幕を張りましょうか。丁度いい柱もあるしここ数日で一番いい場所みたいね」
「確かに、ルシルはずっと荷台で寝ていたからな。俺は荷馬車の脇で毛布にくるまって寝ていたけどさ」
「そりゃそうよ、私はか弱い女の子なんだもん」
「まあ俺もあの中で一緒に寝るというのはなんとなく気が引けるしいいんだけどさ。でも今日は天幕で寝られるから、手足を伸ばして休めるな」
「うん!」
ルシルが元気よく天幕を広げる。
「じゃあ端をあの柱に結んで~」
「任せろ」
天幕の屋根をロープで吊り周りは布を垂らして壁代わりにする。地面に杭で固定すればある程度の雨風はしのげるし、床代わりに飼葉の藁を敷けば地面の冷え込みや朝露も気にしなくて済む。
「さてと、じゃあ後は俺がやっておくから、ルシルはシルヴィアたちを呼んできてくれ」
「判った~」
軽い足音を鳴らしながらルシルが丘を下っていく。
「夕暮れ前には一狩りできたらいいな」
俺の独り言が爽やかな風に乗って運ばれていった。