処女
セシリアとオークロードが対峙する。
セシリアのレイピアがオークロードの腕に切り傷を付けるがオークロードは意に介さず大鉈を振るってくる。
「セシリア大丈夫か!」
俺の声は届いているだろうがセシリアはオークロードとの戦いに集中していた。
「ここは見守るしかないか……」
セシリアがバックステップでオークロードの攻撃を躱す。大振りをしたオークロードは空振りをした勢いでたたらを踏む。
「そこっ!」
セシリアはオークロードの背後に回って背中を切る。
オークロードはそのまま振り返りもしないで大鉈を振り回した。
「甘いっ!」
セシリアは大鉈の動きを読んで横に払った大鉈をしゃがんで躱す。
「当たらなければどれだけ力があろうと……!」
振り抜いたオークロードの右腕をレイピアで突き刺すと、オークロードは大鉈を取り落としてしまう。
「グガァ!」
「お前の腕の腱を切った。これで武器は持てまい」
武器を落としたオークロードはその巨体をセシリアにぶつける。
「突撃ならその細い剣では受け止められまい!」
オークロードがセシリアにしがみつき、そのまま万力のような腕で締め上げた。
「ぐっ……くうっ……」
息を漏らすセシリアが苦しそうにもがくが、オークロードの腕はそれくらいではびくともしない。
「セシリア、今行くぞ!」
俺が駆け寄ろうとした時だ。
オークロードがセシリアを解放した。
「……な、なぜ」
セシリアが不思議そうな顔をしながらも剣を構え直す。
「お前を痛めつける事はできない。バーガルに止められているからな」
「どういうことだ」
突然戦意喪失したオークロードに問いかける。
「我らオークは処女を傷つけてはいけない。これはバーガルが決めた事」
「処女を……だと」
俺は驚いてセシリアの顔を見ると、セシリアはうつむき加減で顔を赤く染めていた。
「なんだいったいそれは。バーガルがどうしたというのだ」
「バーガルは魔族の王だ。オークたちも支配下に置いている」
「この辺りの魔族だからな、そうだとは思うが。それとしょ、しょ、しょ」
「処女」
俺が言いよどむところでオークロードが補完する。
「ああそれだ。魔族の王がそれを気にするとはどうした事だ」
「バーガルは王への生け贄として汚れを知らない少女を求めている。前にオークが捕まえた人間を慰み者にした時、それが処女だったためにそのオークの一部族全てが処刑された事があった」
「一部族全て、か……」
「王の制裁は苛烈を極める。処女を生け贄に捧げよと命が下ったところでそれに異を唱える者はいなくなった」
見るからにオークロードは恐怖におののいている様子だった。
「処女、か」
俺は今一度セシリアを見る。
「ゆ、勇者ゼロ、そんな目で俺を見るなぁ!」