追う者追われる者
俺はワイバーンのウィブに乗って北へ向かう。
「勇者、儂ももう少し遠目が利けば激流を見つけられたやもしれんのう」
「櫓に戻る時か?」
「そうだ。櫓の炎は見えたのだが何せ遠くて水柱が立っていたとは思わなかったからのう」
「それは俺も同じだ。遠目が使えるスキルは持っていなかったからな」
「勇者が櫓の中で戦っいる時に儂は気を失って墜落していたからのう、その時に逃げられたとしても気付いてやれなんだかもしれん」
ウィブは俺を櫓に落とした後に燃えさかる炎の上昇気流で全身を煽られて吹き飛んでしまい、その時に気を失ってしまったらしい。
墜落したという事だったが大きな怪我もなく空を飛べるくらいの体力は回復できたらしい。
「こうして共に飛んでくれているだけでも助かっているさ」
「そう言ってくれると儂も少しは気が楽になるが……それでも嬢ちゃんを見つけださんとのう」
「ああ全くだ」
日もそろそろ傾いてきて夜の闇が西の方から迫ってきてた。
「ウィブは夜目が利くのか?」
「夜が近いからのう。ワイバーンは赤外線暗視が使えるからのう、生き物は熱で感知する事ができるぞ」
「そうか、それであれば助かる。夜になったら探せなくなるのではないかと思ったが」
「だが激流の痕跡はほとんど見えやせぬがな。重たい物が通った時に折れたと思う草も段々と見分けがつかなくなってきたからのう」
確かにウィブが言うように、ルシルをさらったであろう魔族が水の流れを作ってそれに乗っていったとてもその痕跡が徐々に薄まっていく。
倒された木はところどころで見つけられるが、折れた草の跡はもうほとんど消えかかっていた。
「一時は水流に乗って移動したかもしれないがどこかでその術を解いたかもしれないしな」
「それはそうだのう」
そうなると上空から高速で痕跡を見るには難しくなってくる。
その上太陽の光も失われていく状態でだ。
「おいウィブ、あの右側……東に見えるあの土煙が見えるか?」
「赤外線暗視で見てみると、ふむ。馬? それに誰かが乗っているようだが……その馬を何かが追っているようだのう」
「誰かが大きな獣に追いかけられているように見えるな」
「そうだのう」
こんな所で生き物に遭遇するというのも珍しい事だが。
「勇者、もしかしたら魔族の事を見たりしているかもしれないし、瘴気の谷の事を知っているかもしれないのう」
「襲われている者を見捨てるのも寝覚めが悪いな、ルシルの事は心配だが少し寄り道をするぞ!」
俺はウィブに馬の方へ向かわせる。
併走するように向きを合わせて馬へ近付けたが、かえってそれが間違いだったかもしれない。
馬がいななくと棹立ちになって乗っていた者を振り落としてしまう。
「しまった!」
馬の倍はあるだろうか、巨大な獣が馬に飛びついて強靱な前脚で馬の身体を引っ掻く。
俺は低空で飛んでいたウィブから飛び降りで、振り落とされた者に駆け寄る。
「大丈夫か、生きているか!」
俺の問いにその者は驚いた声で答えた。
「婿殿ではないか!」