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追跡開始

 俺はひとまずララバイを地上に連れて行き、マージュと城郭から駆けつけた衛兵にその身柄を託した。


「一命は取り留めたと思うが無理はさせるな。じっくり養生させるように」

「はい、ありがとうございますゼロさん」


 マージュの礼に俺は軽くうなずくと、空に向かって声を張り上げた。


「おいウィブ! いたら戻ってこい!」


 俺の声に応えるように上空で甲高い咆哮ほうこうが聞こえる。


「呼んだかのう勇者」


 上空で旋回する巨大な影が話しかけてきた。ワイバーンのウィブだ。


「ルシルが連れ去られた。水を操る魔族らしい。お前は上空にいて何か気が付かなかったか」

「申し訳ない勇者、儂も先程まで意識を失って倒れていた身、辺りの事は判らんのだの」


 やはりあの炎の上昇気流で煽られて無事ではなかったらしい。


「くっ、それは仕方がない。俺も無理をさせたからな、すまなかった」


 裏が取れないまま北へと向かうか。そう考えていた時だった。


「ゼロさん、私が思念伝達テレパスを使って探してみます!」

「できるのか!」


 俺はマージュの肩をつかむ。


思念伝達テレパスを使える事は知っているが、探すなんて……」

「思念を持った生物であれば近くにいないか確認する事ができます!」

「そうかそれは助かる! ルシルかそれを連れて行った魔族を探せれば……」

「少しお待ちください……」


 マージュは思念伝達テレパスを使うために目を閉じて精神を集中する。


「元々判っている相手であれば見つけるのは簡単なのですが……。ルシルさんの反応がありません」

「なっ、それって……」


 俺は不吉な考えがよぎらないように頭を振った。


「確実ではありませんが、気を失っている場合は思念伝達テレパスに反応しない事もあります。きっとルシルさんは……」

「そうか。他の人間は見つからないか……?」


 俺は努めて冷静にゆっくりと話をしているつもりだったが、それでも焦りが表に出てしまう。


「勇者、少しその魔法使いの肩を離してやってはどうかのう」


 力強くマージュの両肩をつかんでいた俺にウィブが忠告をしてくれた。


「あ、ああ。すまない」

「いいのです、私も心配ですからお気持ちは判るつもりです……」


 俺は手を離すとマージュの周りをうろうろと歩き回る。


「それで思念体はどうだ、見つかったか」

「いえ、北にはまったく……南には城郭にいる皆さんの思念が伝わってくるのですが……」

「流石に王国の中には連れて行かないだろうな」

「はい、恐らく」

「もう少し遠くまで探る事はできないのか?」


 マージュは荒い息をつきながら俺の質問に答える。


「もうこれ以上は……私の能力では……」

「そうか無理をさせたな」

「いえ……でも、町の人たちから情報が!」


 マージュの顔が疲労に包まれながらも笑顔になった。


「激流となった水の塊が物見のやぐらから北へと流れていくところを見たと言う人がたくさんいました」

「本当か!」

「櫓が燃えているので遠くからでも目撃者が多かったみたいです。燃えた櫓から河のような濁流が北へ向かっていくというのを見たという思念伝達テレパスがたくさん……」


 辺りには水浸しになっているようなところは見当たらない。そうするとその魔族は水を操る上に、水も回収できる奴なのかもしれない。


「おう勇者」

「どうした」


 ウィブが俺に話しかけてくる。


「空を飛べば判るのだがのう、そう言われてみれば何か大きな物を引きずっていったような跡が見えるぞ」

「それは、水が流れた跡か!?」

「それは判らんが折れた草も少なくてのう、薄い跡しか残っておらんのでよぅく見なければ見落とすところだったのう」


 ウィブが翼に生えた爪で器用に頭をかく。


「でかした! きっとそれに違いない。ウィブ、俺を乗せてその跡を追ってくれ! 頼む!」

「頼まれると悪い気はしないのう。よぅし任せろ勇者、儂が跡を追って嬢ちゃんを見つけてくれようぞ!」


 俺は頼れるワイバーンの背中に飛び乗る。


「マージュ、それに砦の兵たちよ。お前たちの王はしっかりと看護するのだぞ」

「はい、ありがとうございます! ルシルさんのご無事を祈っています」

「ああ、よし行くぞ!」


 俺はウィブの背中から首筋を軽く叩く。


「おう、しっかり捕まっておるのだぞう!」


 そう言うやいなやウィブは急上昇して、大地があっという間に遠くなっていった。

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