そして新天地へ
天幕の闘技場で勝者が決した。
「ほっほっほ、やりおったの。よろしい勇者ゼロ、国境の通行許可証を与えようかの」
コロホニーが檻の扉を開けた。俺はアンフィスバエナの体液まみれのまま檻から出る。
「何かつかめたようだの」
コロホニーの問いに俺はうなずいて応える。
初めは単なるジジイの娯楽か嫌がらせかと思ったこの戦いで、俺は力に目覚めることができた。
いや、覚悟ができたと言うべきか。
「じいさんのおかげで自分がどうすべきか、判った気がするよ」
「ほうかほうか、だらよかったの」
「でもさ、おじいさんって王国の人でしょ? それに国境を管理してるんだもん、それがゼロの味方するような事をしてよかったの?」
ルシルはコロホニーに直球の質問を投げる。
「お尋ね者なんてのは手配書が回ってるからの、初めから判っとったがの。だら、スネイコと戦ってもらったんだの」
コロホニーはあっけらかんとしていた。
「スネイコ?」
「ああ、アンフィスバエナの名前だの。アンフィスバエナのスネイコ」
そんな名前が付けられていたのか。
「でもじいさん、俺が千切っちまったから……へ?」
俺が振り返ると、アンフィスバエナが千切れた傷口をくっ付けてうねっていると、傷口がだんだんと塞がってまた一匹の蛇になった。
「なっ、凄い回復力だな……」
コロホニーが檻の扉を開けると、アンフィスバエナがコロホニーの身体を這い上がる。マフラーを首から掛けるような感じでアンフィスバエナが肩に乗った。
「スネイコはの、ちょいと前に森で怪我をしていたところを見つけての、飯を食わしてやったらこの通り懐いてしまっての」
「すごい……アンフィスバエナは滅多に懐かない事で知られていますのに」
「そうなのかシルヴィア」
「ええ、ですから子供の頃から調教しようと、卵から育てるという話もあるくらいですから」
すごいなアンフィスバエナ。いや、すごいのはそれを使役するこのじいさんか。
「スネイコに負けるようではそれまで、己の身一つで何もできないようでは国境の外では生きていけまいの。だら、ここを通りたがる戦士には試練を課しておる、というのは建前での」
コロホニーは両手でスネイコのそれぞれの頭をなでる。
スネイコは嬉しそうに身体をくねらせていた。
「ワシの役目は王国の中へ魔獣が入ってこないようにする事だからの、出て行く分には好きにしたらええんじゃの」
確かにアンフィスバエナを従えているとなると戦力としては十分か。アンフィスバエナは魔獣の中でもかなり強い部類に入る。
「だったら別にゼロに試練を受けさせなくても……」
ルシルの問いにコロホニーが即答する。
「単なる暇つぶしだの。だがまあスネイコが倒されたのはこれが初めてだったがの。ほっほっほ」
「ったく、なんだよそれは。ははっ」
成長するきっかけをもらっていて何だが、ついコロホニーの調子に乗せられて笑ってしまう。
「まあよいわい、ほれ、これをやろうの」
コロホニーが俺に筒のような物を手渡す。
「これは?」
「魔獣の笛だの。これを吹くと程度の低い魔物なら遠くへ逃げてしまう物だの」
「ほぉ、それはありがたい。カイン、持っていてくれるか」
俺は魔獣の笛をカインに渡す。
「はい、ボクが大切に預かってるね」
「何かあった時の助けになってくれればな」
「ありがとうゼロ様!」
新しい魔法道具を受け取ったカインは嬉しそうだ。
「この笛が効かない魔獣も多いからの、道中気をつけての」
コロホニーが国境出口の門を開けてくれる。
俺たちは礼を言いつつ、荷馬車で門をくぐった。
【後書きコーナー】
※予告
ついにムサボール王国から抜け出した勇者ゼロ一行。
魔王討伐の時には現れなかった魔物が大挙して押しかけてくる(のか)!
美女とのラブロマンスが繰り広げられる(のか)!
早く出てこいもふもふ娘。
次話
『新居探して森の中』
「ゼロ~!」
「もう、早くのんびりさせてくれ~!」