炎の魔人と雷の魔人
炎の渦巻く櫓の中で俺の前に立つ女。
身体の線がくっきりと判る革製の衣装に大きな襟の立った外套を羽織っている。
見間違いでなければ外套の模様が炎のように揺れていた。
「魔王殺しのゼロ、お主を探していたのよぅ!」
ダムダムと名乗る魔族が俺を指さす。
「なぜ俺の事を」
「おやおやおや、知らないのかい? まああたしもさっき知ったばかりだったからねぇ」
炎の中からもう一人魔族が現れる。
「マクドール、と言ったか……」
それは俺たちが捕らえて椅子に縛り付けていた魔族。魔吸石で魔力を枯渇させて意識もはっきりしていない状態だったはずだが、今はそのような弱ったそぶりはまったく見せない。
「バーガル親衛隊であるマクドールの魔力量を甘く見ては困るな」
「あの衰弱ぶりは演技だったと……」
マクドールはおどけた表情で俺を見る。
ダムダムがそれに被せて説明を始めた。
「お主たちの質問責めが始まる前から親衛隊内で思考共有をかけていたのよ。お主たちがやろうとしていた事は全てあたしらにも伝わっていたというのに、それにも気付かず好き勝手やってくれたわねぇ」
岩石の巨人といい、バーガル親衛隊の四人の内三人までこうして連動しているところを見ると、ダムダムの言う通りなのかもしれない。
「我らバーガル王の覇道を妨げる者は何であろうとこのバーガル親衛隊が排除する。そのためであれば捕まった振りなどという演技をした甲斐があったというものだな!」
「くっ、まんまと騙されたという訳か……」
「まあ情報自体に偽りはない。その点はお前たちにも有益な物だったと思うのだな! ハハハッ!」
マクドールは俺を見下した笑い声を上げた。
「ルシルやララバイたちはどうした」
俺の問いにマクドールが片方の眉だけ上げて俺を見る。
「お前にそれを教える義理はないが……あの小娘はケンタロウ、もう一人の親衛隊がバーガル王への献上品として持ち帰った。あとの人間は知らん。適当にそこら辺の瓦礫の中にでも埋もれているだろうさ」
「勝者の余裕か。何でも答えてくれるのだな」
「そうとも。信じるも信じないもお前の自由。俺の言葉に偽りがあろうともそれを確認する術はないがな、今から死にゆくお前にはなぁ!」
マクドールの手から電撃がほとばしる。
「おやおやおや、避けようにも周囲に広がる炎がお主の動きを制限する……なっ!」
ダムダムが話しかけてきている途中で俺は超加速走駆をかけて一瞬で間を詰めた。
「俺に熱は効かない。爆熱スキルという物はこうやって使うのだ。SSランクスキル、豪炎の爆撃っ!」
俺は左手をダムダムの胸に押し当ててスキルを発動させる。
「っ!」
ダムダムの言葉にならない声が漏れて、その直後に爆発が起きた。
「炎を操る魔族といえども自分よりも強力な炎には勝てない道理」
ダムダムだった肉片があたりに飛び散る。
「それに爆発の威力は膨張、破裂する力。炎の耐性があっても吹き飛ぶ力にはあらがえまい」
飛び散った肉片が周囲の床や壁にぶつかり、焼け焦げる臭いが加わった。
「今の俺はお前たちにかかずらわる余裕がない。お前の言葉を信じればなおのこと」
俺はもう一度超加速走駆を発動させてマクドールの背後を取る。
「後腐れなく後顧の憂いを断つにはこれが最良とは、俺も視野が狭いな……」
「ぐふっ……」
俺は背中からマクドールを剣で貫くと、そのまま剣を上に持ち上げる。
覚醒剣グラディエイトはマクドールの腹から胸、そして頭までを斬り割いて抜けた。
「が、があぁ……!」
マクドールは雷が落ちた大木のように、真ん中から裂けて倒れる。
「北の妖魔が棲んでいた森のさらに北、瘴気の谷に奴らはいると言っていたな」
マクドールの身体が二つに割れて倒れたところで周りの火が燃え移って炎に包まれた。
「待っていろよルシル、俺が必ず救い出してやる」
俺は決意して燃えさかる櫓の中、階段を降りていった。