未確認飛行物体
俺たちは魔力をほとんど吸収され気を失う寸前になったマクドールをそのまま椅子に縛り付けたままで、現在の状況と対策を検討する。
「魔族が私たちの国、マルガリータ王国へ攻め入ってくる事は時間の問題だと思います」
ララバイが口火を切った。
「ただ、親衛隊のマクドールが知っている限りでは、私たち人間の国がこの地にある事は把握していないようだったので、今からでも防備を整えて魔族に対抗できる体勢を取らなくてはならないでしょう」
「そこはララバイの言う通りだと俺も思う。個体数が少なかったり集団で来てくれれば俺だけでもある程度対処できるだろうが、広範囲に攻められでもしたら全ては撃退できないと思ってくれ」
「ゼロは一人だもんね、まとまっている敵だったら簡単なんだけどね」
「そうだな」
俺も分身が使える訳ではない。複数を同時に攻撃されれば、撃退できるのは一カ所だけだ。
「ゼロさんの超加速走駆でも難しいですか?」
マージュが期待のまなざしで俺を見る。
「瞬間的に高速で移動できるがあくまで短距離用、戦闘スキルだからな。遠くに瞬間移動する訳ではないのだよ」
「瞬間移動できるスキルがあったら、便利だよねぇ」
ルシルの言う通りあれば便利という事は、今はないから困っているという事でもある訳で。
「そう、ですよね……。すみません無茶な事を言ってしまって」
「構わないさ。いろいろ考えてくれてありがたい」
俺は軽くマージュに礼を言う。
その時だった。
物見の櫓の上の方だろう、俺たちの頭上で爆発のような音が響いた。
同時に建物全体が揺れて、立っていた俺たちは机や壁に手をついたりしてどうにか踏ん張る事ができたが、椅子に座られられたままのマクドールは椅子ごと倒れてしまう。
「すごい揺れたな。それにあの爆発みたいな音……」
「上って確認してくる!」
俺はそう言うが早いか階段を駆け上がって行く。
「おわっ!」
少し階段を上ったところでまた頭上に爆発に似た音と大きな振動が感じられた。
「いったい何が……なっ!」
階段を上っているところでまだ物見の場所へ到着していないにもかかわらず青く広がる空が見える。
「天井が、ない……」
階段は瓦礫で埋まり上ろうにも上れない状態だ。それ以前に壁が崩落してそこから上が吹き飛ばされていた。
「何か飛んでくる音……」
大きな重たい物が飛んでくる甲高い音が近付いてくる。
その音の方向へ視線を向けると、遠くから地面から引き抜かれた大木が飛んできた。
「大きな木がそのまま一本、だと!?」
飛んでくる大木はゆっくりと回転しながら俺のいる櫓の方へと向かってくる。
「SSSランクスキル円の聖櫃発動っ! 飛翔する物体から我らを守れっ!」
物体を透過させない魔力の壁が俺を中心とした球形に広がった。
大木は円の聖櫃の外縁に当たるとそのまま下へと落ちていき、地面に落ちた時に大きな音と振動と土煙を上げる。
「いったい何でこんな物が飛んでくるんだ……」
俺が大木の飛んできた方向を見ていると、今度は巨大な岩の塊が飛んできた。