魔力吸収の魔晶石
俺たちは物見の櫓にいる。兵の控え室で捕らえた魔族のマクドールを椅子に座らせ後ろ手に縛って自由を奪う。
「マージュ、あれを使ってみようか」
「陛下これですね」
ララバイに呼ばれてマージュが腰のポーチから取り出したのは、白く濁った水晶のような宝石だった。
「マージュ、これは魔晶石か?」
俺はマージュに問いかける。見た目は魔力を注入して溜めておける魔晶石に似ている。
「ええ、それに近いものですがあの火山で見つけたのです」
「ヴォルカン火山か、あのレッドドラゴンのいた」
「はい、これは魔吸石と言います」
マージュは拘束しているマクドールの額に魔吸石を近付ける。
「よ、よせ! やめろ!」
「抵抗しても無駄です。魔吸石は魔晶石よりもさらに希少性の高い鉱物で使う者が相手の魔力を吸収させる事ができるのです」
「吸収……そうか、魔晶石は自分で魔力を注入するが、魔吸石は他人の魔力を注入できる、という事だな」
「簡単に言うとそんな感じですね」
確かに意思を持って魔力を充填する事ができるのは当たり前として、これを他人の意思で吸収されるとすると使いようによってはかなり危険な代物だったりする。
「ですが魔吸石は魔晶石よりも魔力の注入に時間が数倍かかるので、戦闘中などには使えないのですが」
「そうか、そうだろうな。もし戦闘中で使えるような道具だったら、敵の魔法使いを無力化できてしまうからな」
「はい。でも時間があればこうして……」
マージュはマクドールに近付けた魔吸石に意識を集中する。
乳白色だった魔吸石が徐々に暗い色へと変わっていった。
「う……ぐっ、やめろ……」
マクドールは抵抗虚しく顔から生気が失われていく。
「これは魔力だけの吸収なのか?」
「そうなのですが、魔力が枯渇すると精神力にも影響が出てきますので思考力が低下するのです」
魔吸石の色が黒に近付いていくにつれて、マクドールの目がうつろになっていった。
「まるほど、この状態であれば……ルシル、思念伝達を使ってみてくれ」
「判ったわ。何を聴こうかしら?」
「俺が質問してみる」
「でも答えないと思うけど」
「だが意識には上るだろう」
「あ、それを思念伝達で拾うのね!」
「そう言う事」
俺はルシルの準備が整ったところを見計らって、ほとんど意識の無くなったマクドールに近付く。
「バーガル親衛隊のマクドールと言ったな?」
マクドールは返事をしないが、ルシルは俺の方を見てうなずいた。
「肯定したわ」
「よし」
マージュが魔力をほとんど吸収してくれたおかげで意識が朦朧としているのだろう。俺の質問に簡単な返事を頭の中で思い描いてくれるようだ。
「バーガルとは何者だ?」
俺はルシルが思念伝達で受け取った言葉を待つ。
「バーガル王は魔族を統べる我らの主、だって」
「魔族を統べる、だって!?」
バーガル王。また面倒な奴が出てきたものだ。