拷問器具
俺たちは物見の櫓にマクドールを連れていった。
大きな石を積んで円筒形の櫓の中は、石のせいか外よりもひんやりとしている。
「地下の牢獄へと連れて行きます」
ララバイが捕虜となったマクドールを地下へと引っ張っていく。
俺やルシルたちがいるためマクドールは言うがまま引っ立てられる。
「ここが地下牢です」
一緒に来ているマージュが説明をしてくれた。
ララバイは王族という事もあって物見の櫓へは来た事がなかったらしいが、マージュは王国の魔法使いとして勇者の一行になる前は様々な場所へ派遣されていたという。
「私も地下牢は行った事がないのですが……」
妖魔の攻撃があったために櫓は守備兵が出払って、今はそのままになっている。
「誰もいない詰め所というものも心なしか不気味だな」
「あら、ゼロはこういうの苦手だっけ? あ~、幽霊とか」
「ルシルっ!」
俺は慌ててルシルの口を塞ぐ。
「ま、まあだからといって何だという訳でもないがな……」
俺の手から解放されたルシルは肩をすくめて仕方ないというそぶりを見せた。
「鍵が開きましたよ、陛下」
マージュが兵の控え室から鍵を取ってきて、牢屋の扉を開ける。
「よし魔族の者よ、まずはここに入ってもらおう……うっ」
開けてみて判る、むせかえるような血の臭い。
じっとりと湿った空気の中に、カビのような鉄のような臭いが充満していた。
「これ……牢屋じゃ……」
マージュが息を呑む。
「ところどころに見える黒い染みは、被害者の血の跡だろうな」
俺は見たままを冷静に分析する。
壁には窓がなく天井からは鎖が吊されていた。その鎖の先には手錠と首輪がぶら下がっている。
「部屋の端にも何かあるが、これはエンバーミング、遺体処理の道具ではないか? 工具のような物すらあるな」
「ま、まさか……」
「おいララバイ、お前はこの拷問が行われていた部屋の存在を知っていたのか?」
「いや、私はこんな……非人道的な」
ララバイは口を押さえて吐き気と戦っている。
「ゼロ、ララバイが知らないのは本当かも」
「かもしれないな。これも先王の負の遺産、という事か……」
俺はあきれてしまうが事実は事実なのだろう。今更どう取り繕っても過去は変えられない。できる事は未来を変える事だ。
「ララバイ、どうするかね。ここの地下牢を使うか?」
「いえ! ここは使いません、先程の兵の控え室、あそこでこの魔族の者から話を聴きましょう。ここはいるだけで気分が悪くなってくる……」
「いいだろう。マクドールと言ったなお前」
マクドールは俺の呼びかけに少しだけ目線を俺の方へ向けた。
「ここの部屋は使わないらしい。だがそれが良かったのか悪かったのかは、これからのお前の対応次第だという事を忘れるなよ」
マクドールは俺の鋭い視線からそらすように下の方を向いてしまう。
「さてと、できれば平和的に話を聴きたいものだがな」